このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
(いつもと同じベージュ系のリップをと思っていたけれど、ベージュだけで何種類あるんだろう? どう選んだらいいのか、さっぱり……)

「よろしければ、ご相談にのりましょうか?」

 まごついていた咲穂に、柔らかな声がかけられる。

「あ、ありがとうございます」

 顔をあげた咲穂は、思っていたより近い距離にいたその人に目を奪われた。

(わぁ、なんて綺麗な男性(ひと)

 白くなめらかな肌に、優しい亜麻色の瞳。瞳と同じ色をした髪は、うなじが隠れるほどの長さで無造作にセットされている。小顔で、手足がものすごく長い。白いシャツに黒いパンツというなんでもないファッションも、とてもオシャレに着こなしていてモデルみたいだ。中性的というより、男女の枠組みなど超越したような美貌で、誰をも魅了してしまいそうな色香があった。

「あ、えっと……マリエルジュのビューティーアドバイザーさんですか?」

 ビューティーアドバイザー、通称BA。最近は男性BAも珍しくないという話は、理沙子から教えてもらっていた。

「いや、僕はメイクアップアーティスト。ほら、そこのポスターと同じ顔でしょ」

 彼は店頭の看板を指さしながら言う。たった今やっていた、イベントの告知ポスターが貼られている。著名なメイクアップアーティストが抽選で客にメイクを施してくれるという企画だったようだ。

七森悠哉(ななもりゆうや)……さん?」

 その著名なメイクアップアーティストというのが、どうやら彼のことらしい。

「すみません、私こういう世界に疎くて」
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