冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
「なにかあったのか?」
「CEOの結婚の件が、また週刊誌に――」

 呼び出されたのは役員フロアの会議室。そこには潤派の役員連中がずらりと並び、真ん中には塔子がふんぞり返るように座っていた。まるで、櫂がひっくり返した役員人事への報復でもするかのようだ。

「どうしてあなたがこちらに? 経営には関わっていないはずでは?」

 静かな声で櫂は尋ねる。
 塔子はMTYジャパンの大株主であり、裏から役員たちを操ってはいるが、建前上は経営には関与していない。なのでこうやって直接表に出てくることは珍しい。

(そっちも勝負に出たということか)

「そうね。でも、今回の件はこのMTYジャパン社だけの問題じゃないの。美津谷家の名誉に関わることよ」
「わかりました。では、聞きましょう」

 櫂は細く息を吐き、自分の席につく。

「また、週刊誌から連絡があったわ」

 これ以上ないほどに嫌みっぽい口調で彼女は言う。塔子の秘書のように控えていた梨花が櫂のもとまで歩いてきて、印刷された記事を渡す。

「明日、発売予定だそうです」

 梨花の口調は、歌うように楽しげだ。

 咲穂と撮られたときもそうだったが、週刊誌というのはたいてい記事が出る直前に連絡をしてくる。「もう時間もないし、差し替えは無理ですよ」というポーズをとるためだろう。まぁ、事前報告がないケースもざらにあると聞くから、連絡してくるだけマシかもしれないが。もったいぶった速度で、塔子が口を開く。

「うちの社員から匿名で告発があったそうよ。あなたの本性を暴露しますってね」

 匿名の社員、確認するまでもなく塔子の差し金だろう。櫂は記事に目を走らせる。
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