冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
【美津谷櫂、電撃結婚の真実! 愛のない偽装結婚か?】

 見出しにはそんな文字が躍っている。櫂が結婚を決めたのは自身が主導する新ブランドリベタスの話題作りのため、新妻とは実態のない偽装夫婦。そんな内容がつづられている。全体的に悪意に満ちてゆがめられてはいるが、櫂と咲穂しか知りえないはずの事実が漏れているのも確かだった。

(これは……どういうことだ?)

 櫂は眉根を寄せ、下唇を噛んだ。その焦りの表情を、塔子がせせら笑う。

「美津谷櫂の誠実なイメージは打算で作りあげられたもの。本性は自身の成功のためなら、どんな手でも使う悪徳CEO。社員がそう証言したそうよ」

 役員たちも塔子に追従する。

「リベタス発売直前に、このイメージダウンは困りますね」
「いや、イメージ低下だけで済めばいいが……世間からリベタスの例のCMは詐欺だと糾弾される可能性もあるんじゃないか?」 

 例のCM、櫂と咲穂が共演したオープニングCMのことを指しているのだろう。

「あぁ、たしかに。夫婦共演をアピールしたのに、偽装結婚じゃ……世間は近頃、こういうのに厳しいですからなぁ」

 困った、困ったというわりに、全員頬が緩んでいる。櫂を蹴落とすチャンスを得て、嬉々としているのを隠せていない。

「まず……」

 櫂は冷静な声を出した。

「私と彼女は偽装結婚ではありません。正式に婚姻届を提出し、一緒に暮らしています」

 結婚を決意するきっかけに打算があったこと、それは否定できない。だが、その後の関係を実態のない偽装夫婦といわれるのは心外だった。彼女との暮らしは、櫂が生まれて初めて手に入れた温かい家庭そのものなのだから。
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