冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
(なにより、俺は……心から咲穂を愛している)

 長い付き合いの親友に、どうしようもない嫉妬心を抱くほどに。

「次に、この記事は匿名の社員の証言だけで構成されています。証拠はいっさいなく、すべて憶測……という可能性も否定できないと思いますが」

 堂々とした櫂の態度に、役員たちがわずかにひるむ。しかし、塔子だけは不敵にほほ笑んだ。

「そうね。たしかに、この週刊誌を相手に裁判でもした場合は……あなたが勝つと思うわ。でも重要なのは、世間がこの記事をどう見るか?でしょう」

 ここぞとばかりに塔子は立ちあがり、鋭い目で櫂を見おろす。

「権力のあるCEOの主張と、匿名で告発した人間の発言。世間はどっちの味方をするかしら?」

 櫂はグッと言葉に詰まった。こればかりは、塔子の言うとおりだからだ。世間はきっと、この匿名の社員が正義のために行動したと思うだろう。この告発の裏にMTYジャパン社の派閥争いが絡んでいるなどとは誰も想像しないはずだ。

「真実はどうでもいいの。あなたと、どこの馬の骨ともわからない庶民の女の結婚が、美津谷の名に傷をつけた。私が問題にしているのはその一点だけよ」

 責任を取れ、潤に後継者の座を渡せ、そう言いたいのだろう。
 ククッとおかしそうに笑って塔子は続けた。

「あの子もかわいそうにねぇ。関係者の目には、仕事のために身体を売った女と映るでしょうし……仕事を続けることすら難しくなるかもしれないわ」
< 135 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop