冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 自信たっぷりに彼はほほ笑む。

「ピンチに強いのは、お前の最大の武器だな」
「まぁね」

 それから、彼は真面目な顔になって櫂を見据えた。含みのある眼差しが櫂を射貫く。

「なにより……咲穂ちゃんが一生懸命がんばってた仕事だから。彼女のために、どうしても成功させたかった」

 そのひと言で、悠哉が本題に入ろうとしていることがわかった。あの夜、彼と咲穂がふたりでいるときに感じた胸騒ぎはやはり正解だったのだろう。
 であれば、自分がある意味、卑怯な手を使って咲穂の夫というポジションをつかんだこと。それを黙っているのはフェアじゃない。

「悠哉。聞いてほしいことがある。俺と咲穂の結婚は――」

 だが、その先は彼に遮られた。

「全部、知ってる。この間、咲穂ちゃんにも確認した」

 櫂は驚きに、幾度か目を瞬く。
 悠哉は早い段階から自分たちの関係を疑っていたこと、そしてそれを咲穂に直接ぶつけて事情を聞いたことを明かしてくれた。

「本来ならまずは櫂と話すべきだったのに、勝手な行動をとったことは謝る。悪かったよ」
「いや……」

 そう答えながら、櫂の脳内でいくつかの疑問が解けていく。

 まず週刊誌の件。自分か咲穂がリークしたかのような詳細情報はいったい誰が発信源だったのか。たった今、この件がすでにふたりだけの秘密ではなくなっていたことが判明した。

(だが、悠哉ではない)

 彼がそんな人間じゃないことは自分が誰よりも知っている。となれば、悠哉と咲穂の会話を盗み聞きしていた人間がいたと考えるのが自然だ。それが〝匿名の社員〟の正体。

 潤派の人間、最近やたらと櫂の身辺を探っていた梨花辺りだろう。
< 137 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop