冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
櫂につかみかからんばかりの勢いで、塔子は身を乗り出した。
「違う、櫂ではない」
悲しみのため息とともに、智仁は告げる。
「事の顛末を私に報告してくれたのは、潤だよ」
櫂と咲穂は潤から事前に話を聞いていたので驚きはなかったが、塔子と梨花は衝撃を受けたのだろう。ふたり揃って、口をハクハクさせている。
潤はいつもと変わらない、軽い調子で話し出す。
「そうだよ。俺が親父に報告した。やめる前にひとつくらい、会社のためになることをしてあげようかと思ってね」
「や、やめる?」
「なにを言ってるのよ、潤」
塔子と梨花の混乱は深まるばかりのようだ。
「潤の退職届はもう受理されている。MTYグループにはいっさい関わらずに生きていきたいという潤の希望を、私は父親として受け入れることにした」
智仁の言葉に塔子はひどく狼狽する。両手で自身の耳を塞ぎ、うなだれた。
「ま、待って。どうしてなの、潤……私がどれだけ、あなたのために尽くしてきたか知っているでしょう?」
氷のように冷たい目で彼は自分の母親を見つめた。
「俺のため? 自分のプライドのためだろう。前妻――兄貴の実の母親に負けたくない。それだけだったくせに」
静かな潤の声が、塔子の頭上に落ちる。
「俺はもうあなたの息子じゃない。金輪際、俺の人生に関わらないでくれ」
塔子の瞳が絶望に見開かれる。彼女はそれきり、ピクリとも動かなくなってしまった。
「じゅ、潤……」
隣に座る潤の腕をすがるようにつかんだのは、彼の妻である梨花だ。
「会社をやめてどうするの? 転職するってこと?」
「仕事はしないよ。フランスに行くつもりだ」
「違う、櫂ではない」
悲しみのため息とともに、智仁は告げる。
「事の顛末を私に報告してくれたのは、潤だよ」
櫂と咲穂は潤から事前に話を聞いていたので驚きはなかったが、塔子と梨花は衝撃を受けたのだろう。ふたり揃って、口をハクハクさせている。
潤はいつもと変わらない、軽い調子で話し出す。
「そうだよ。俺が親父に報告した。やめる前にひとつくらい、会社のためになることをしてあげようかと思ってね」
「や、やめる?」
「なにを言ってるのよ、潤」
塔子と梨花の混乱は深まるばかりのようだ。
「潤の退職届はもう受理されている。MTYグループにはいっさい関わらずに生きていきたいという潤の希望を、私は父親として受け入れることにした」
智仁の言葉に塔子はひどく狼狽する。両手で自身の耳を塞ぎ、うなだれた。
「ま、待って。どうしてなの、潤……私がどれだけ、あなたのために尽くしてきたか知っているでしょう?」
氷のように冷たい目で彼は自分の母親を見つめた。
「俺のため? 自分のプライドのためだろう。前妻――兄貴の実の母親に負けたくない。それだけだったくせに」
静かな潤の声が、塔子の頭上に落ちる。
「俺はもうあなたの息子じゃない。金輪際、俺の人生に関わらないでくれ」
塔子の瞳が絶望に見開かれる。彼女はそれきり、ピクリとも動かなくなってしまった。
「じゅ、潤……」
隣に座る潤の腕をすがるようにつかんだのは、彼の妻である梨花だ。
「会社をやめてどうするの? 転職するってこと?」
「仕事はしないよ。フランスに行くつもりだ」