このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「あぁ、大丈夫。ここは櫂が払うから」
「え?」
「なんでだよ」

 咲穂と櫂が同時に声をあげる。クスクスと笑って、悠哉は続ける。

「だって、こんな時間から彼女に仕事をさせる気なんでしょう? なら、残業代を払わないと」

 茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせる悠哉に、櫂は大きく肩をすくめる。

「……まぁ、お前の言うことも一理あるか」

 ジャケットの内ポケットから革のカードケースを出す櫂を見て、咲穂は慌てる。

「いやいや、そんなわけには!」
「もらっておきなよ。櫂は仕事となるとノンストップだから。残業代には足りないくらいだと思うよ?」

 悠哉の言葉に櫂も同意する。

「そうだな。このあとの仕事できっちり回収するから、遠慮なく受け取れ」

 結局、支払いは櫂が済ませてしまった。百合のロゴマークの入った小さなショップバッグを手にした咲穂は、ぺこりと頭をさげる。

「ありがとうございます。七森さんも、貴重なお話を聞かせてもらえて大変勉強になりました」

 悠哉は柔らかな笑みを返してくれる。

「どういたしまして。それじゃ残業、がんばってね!」

 悠哉に見送られて、咲穂は櫂とともにこのビルの三階に入っているバーに向かう。個室があるので、櫂はビジネスでもよく利用するそうだ。

「足元、気をつけて」

 当然のように、彼は咲穂の手を取りエスコートしてくれる。ハリウッドセレブと並んでもまったく見劣りしない美貌、そしてこの優雅な立ち居振る舞い。マスコミが財界のプリンスともてはやすのも納得だった。
 世界的セレブ、美津谷櫂とふたりきりでいる。仕事とはいえ……そのインパクトに自分でも驚いてしまう
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