このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
(でも、ここまで別世界の人だとかえって意識しなくて済んでいいかも)
仕事とはいえ男性とふたりきりでバーなんて、普通なら緊張してしまう状況だけれど……彼が相手だとそんな意識すらおこがましくて湧いてこない。
通された個室は黒とゴールドのシックな内装で素敵だった。咲穂がソファ席の座り心地のよさに感動していたら、櫂にふっと笑われてしまう。
「プレゼンのときも思ったが……君は大物だな」
「え?」
「俺の前で〝いつもどおり〟を貫ける人間は、そう多くない」
不遜なように見えて、どこか寂しげな微笑だった。
(……セレブなりの苦労が、やっぱりあるのかな?)
一挙手一投足を世界中から注目される生活など咲穂には想像もつかないが、きっとよいことばかりでもないのだろう。
だが、櫂の表情はすぐさまオンモードに切り変わる。
「早速だが、仕事の話をしよう」
悠哉に忠告されたとおり、彼はビジネスとなるとかけらも妥協できないようで議論は白熱した。
「いっそ、オーディションで無名のモデルを抜擢するのはどうでしょうか? 無色透明、色のついていないモデルのほうがリベタスには合う気がして……」
「なるほど、いい案だ。特別じゃない、普通の人。そのほうが視聴者は自己投影しやすくなる」
彼は咲穂の意見に賛成してくれたが、同時に課題も突きつける。
「だが、リベタスはMTYの看板ブランドに育てるつもりでいる。高級感や格は絶対に失いたくない」
「オーディションで無名の逸材が見つかるかどうか……う~ん、賭けになってしまうかもしれないですね」
仕事とはいえ男性とふたりきりでバーなんて、普通なら緊張してしまう状況だけれど……彼が相手だとそんな意識すらおこがましくて湧いてこない。
通された個室は黒とゴールドのシックな内装で素敵だった。咲穂がソファ席の座り心地のよさに感動していたら、櫂にふっと笑われてしまう。
「プレゼンのときも思ったが……君は大物だな」
「え?」
「俺の前で〝いつもどおり〟を貫ける人間は、そう多くない」
不遜なように見えて、どこか寂しげな微笑だった。
(……セレブなりの苦労が、やっぱりあるのかな?)
一挙手一投足を世界中から注目される生活など咲穂には想像もつかないが、きっとよいことばかりでもないのだろう。
だが、櫂の表情はすぐさまオンモードに切り変わる。
「早速だが、仕事の話をしよう」
悠哉に忠告されたとおり、彼はビジネスとなるとかけらも妥協できないようで議論は白熱した。
「いっそ、オーディションで無名のモデルを抜擢するのはどうでしょうか? 無色透明、色のついていないモデルのほうがリベタスには合う気がして……」
「なるほど、いい案だ。特別じゃない、普通の人。そのほうが視聴者は自己投影しやすくなる」
彼は咲穂の意見に賛成してくれたが、同時に課題も突きつける。
「だが、リベタスはMTYの看板ブランドに育てるつもりでいる。高級感や格は絶対に失いたくない」
「オーディションで無名の逸材が見つかるかどうか……う~ん、賭けになってしまうかもしれないですね」