このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 具体的なモデルは決まらないものの、男女のモデルを使おうという点ではふたりの意見が一致する。

「恋人なのか夫婦なのか兄妹なのか、ふたりの関係性は視聴者に想像してもらう。そんなイメージでどうでしょうか?」

 普通、どんな商品でもターゲットは明確に想定するものだが……リベタスに関しては、櫂はそれをしたくないのだと思った。

 それは正解だったようで、聞いていた彼の表情が明るくなる。

(こうして顔を合わせて議論したことで、彼のビジョンをしっかり理解できた気がする)

「こちらが一方的にオススメするのではなく、お客さまに選んでもらう。冒険的なアプローチですけど、今の時代には合っていると思うんです」

 咲穂の言葉に彼は目を細めた。

「まさに、それが俺の言った〝売上より大切にしているもの〟だ。『これでいい』じゃなく、『これがいい』と思って、うちの商品を選んでもらいたい」

 自信に満ちた彼の笑顔。思わず目を奪われた。

(あぁ、この人は自分の扱う商品を心から愛しているんだな)

 噂どおり、彼は厳しい人だ。だが、自分の仕事にそれだけの誇りと熱意を持っているのだということもわかった。咲穂はこの仕事に人生を懸けて挑むつもりだ。だから、プロジェクトリーダーである彼のこういった姿勢は、とても心強い。ついていきたいと思わせてくれる。

「毎朝、毎晩、手に取るたびにワクワクする。顧客にとって〝特別な化粧品〟。リベタスが目指すのはそこだ」
「手に取るたびにワクワクする……かぁ」

 化粧品を消耗品と考えてきた咲穂には、少し耳が痛い。

「その表情を見るかぎり……君は化粧を義務としてこなしているタイプだな」
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