このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 理想的な女性。その単語に咲穂の心臓はドクンと跳ねた。カッと熱くなった頬を押さえて、櫂を見る。だけど、彼は自分の発言が咲穂に与えた影響など、まったく気にも留めていない。

「きっとリベタスのアイテムもよく似合うよ」

 まじまじと咲穂を見つめ、そう言った。

(メイク映えするシンプルな顔って意味で、別に褒められてない。でも……でもさ……今のもある意味、〝余計なひと言〟だと思うの)

『理想的な女性』

 無自覚なら、なおさら質が悪い。失礼で意地悪、かと思えば急にドキドキする言葉を放ってみたり……彼にすっかり翻弄されている自分が、すごく悔しい。

 櫂がつまみに頼んでくれた、ハチミツ漬けのナッツをぱくりとして、咲穂は彼を見る。

「それにしても……期待外れだと言っていたのに、美津谷CEOは意外と面倒見がいいんですね。驚きました」
「あぁ、君はこのプロジェクトに人生を懸けていると言っただろう? その本気が、どれほどのものなのか興味が湧いたんだ」

 そこではたと、彼は眉根を寄せて表情を曇らせる。

「別に女性としての君を気に入ったわけじゃないから、誤解するなよ」
「まったくしていませんので、ご安心ください。私にとって美津谷CEOは遠い世界の……そう、宇宙人です」
「宇宙人。君は失礼だと言われないか?」

 遠い星に住む彼が、少しだけ人間らしい顔を見せる。咲穂はクスクスと笑った。

 あっという間に時刻は夜十時。新しい企画の方向性もまとまり、櫂がテーブル会計を済ませたところで咲穂のスマホが鳴り出す。実家の父からだ。

(いつものお小言……にしては、遅い時間ね。なにかあったのかな?)
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