このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 パニックでなにも考えられない咲穂とは対照的に、彼はこの短時間で様々な戦略をシミュレートし、最適解を導き出したようだ。
 美しい瞳で咲穂を見つめ、櫂は言う。

「俺たち、結婚しよう」

 東京、丸の内。
 高層ビルが立ち並ぶこのエリアにあっても、ひと際目を引く洗練された建物がMTYジャパン本社ビルだ。

 バーでの夜からちょうど一週間。咲穂は『今後についての作戦会議』という名目で櫂に呼び出されていた。定時を過ぎた夕方六時、夕日の差し込むCEOの執務室で、彼と向き合う。

「ほ、本当に記事が出るんですか?」

 正直なところ、咲穂は半信半疑だったのだ。櫂がどれだけスーパースターでも、撮られた相手である自分は一般人。記事にするほどの価値はないだろうとの楽観的な考えも捨てきれずにいた。

「残念ながら、出る。これがそのコピーだ」

 櫂は数枚の紙を咲穂に手渡す。

「発売日は週明けの火曜だ」

 彼が発売前に手に入れたらしい、記事に咲穂は素早く目を走らせる。あまりの衝撃にそのまま卒倒しそうになった。

(ちょっと転んだところを支えてもらっただけの場面なのに、熱い抱擁に見えるのはどうして?)

 カメラマンの腕なのか、見出しの煽り文句のせいか。ものすごく、それらしい写真に仕上がっていた。記事を持つ咲穂の指先がプルプルと震える。

「財界のプリンス美津谷櫂の火遊び? お相手は一般女性のA子さん。このA子さんって私のことですか?」
「まぁ、そうだろうな」
「女優のユイにそっくりの美女って……人生で一度も言われたことありませんけど?」
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