このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「俺もまったく似ていないと思うが、読者の食いつきを考えたんだろう。ほら、君の顔自体はほぼ写っていないから、虚偽にはならない」

(こ、こんなときまで発言が失礼……)

 言葉選びに難があるのは彼のデフォルト設定なのだろう。そこはもう諦めることにして、咲穂は話を続ける。

「これ、社内の人が読めば私だとわかりますよね?」

 どこでどう調べたのか、A子が社内の人間で、櫂が指揮する新ブランドのプロジェクトメンバーであることまで記載されているのだ。
 記事が出たら、みんなからどんな目で見られるか……。

「リベタスのプロジェクトメンバーには、発売日前日である月曜にこの件を説明するつもりでいる。それに向けて……君の返事を聞きたい」

 含みのある眼差しが咲穂に注がれる。

「俺のプロポーズを受けてくれるか?」

 その言葉で、先日の彼の言葉が本気だったことが証明された。

「週刊誌の件も、君の実家の問題も全部まとめて解決できる。君にとっても、悪い提案じゃないと思うが……」
「そ、そんなにうまくいくでしょうか?」
「なら、もう一度噛み砕いて説明しよう。まずは君のメリットから」

 そう前置きして、彼は話し出す。

「君が結婚してくれるのなら、俺は夫として君の実家を助けるよ。俺には役員報酬以外にも不動産資産などが潤沢にあるし、必要十分な支援を約束する」

 咲穂の縁談相手とはおそらく勝負にすらならない、莫大な金額を彼は提示した。

「これで、君はこっちに残って心置きなく仕事に邁進できるな」

(仕事は続けたい。でも……)
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