このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
一章 夢の代償
一章 夢の代償


「零点だ」

 涼やかな美声が告げた残酷な評価に、咲穂の目は点になる。

「――え?」
「聞こえなかったか? 零点と言ったんだ。この企画は評価の土俵にもあがっていない」

 咲穂が人生を懸けて挑んだ、重要なプレゼン。必死に準備をして、全力を尽くしたつもりだった。だが……このプロジェクトの総責任者である美津谷櫂は、迷いもせず咲穂にNOを突きつけた。

 二十五歳、社会人三年目である咲穂は『美津谷エージェンシー』という広告代理店から、ひと月前に親会社であるMTYジャパン社に出向してきたばかり。

 広告業界での経験を買われて、MTYジャパンが新しく立ちあげる化粧品の新ブランド、リベタスの広報チームに配属された。

『新ブランドのプロモーションは広告代理店任せにせず、最初から最後まで自分たちがイニシアティブを取る。それが美津谷CEOの方針なの。そこで代理店のノウハウを知る、出水さんにチームに入ってもらうことになったのよ』

 出向初日。上司となった女性からそう説明を受けたが、それでもにわかには信じられない異例の大抜擢だった。だが、とにもかくにも咲穂にとってはビックチャンス。

(いつかはお茶の間に流れるテレビCMを手掛けてみたい)

 そんな大きな夢……三年目にして、早くも叶えるチャンスをもらえたのだ。
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