このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
二章 ビジネ妻になりまして

二章 ビジネス妻になりまして


「それじゃ、おふたりのラブラブっぷりが永遠に続くことを願って……かんぱ~い!」
「ご婚約、おめでとうございまーす」

 洒落たイタリアンレストランの店内に、十数名の祝福の声が響く。続いて、グラスを合わせる軽やかな音も。まだひと口も飲んでいないというのに、みんな浮かれきっている。金曜日の夜ならではの光景だろう。

「今夜の主役だからといって飲みすぎるなよ。君はあまり強くないんだから」

 櫂は額がくっつきそうな距離まで迫ってきて、優しくささやいた。あまりに近さに戸惑いながら、咲穂は小さく「……気をつけます」と返事をする。

「いい子だ」

 ふっと漏れる笑い声、大きな手が咲穂の栗色の髪をさらりと撫でる。その瞬間、女性陣から「きゃ~」という歓声があがった。

「いやぁ、我らが美津谷CEOも愛する女性の前ではこんなふうになるんですね~。想定外でした」

 先ほど乾杯の音頭をとってくれた咲穂の上司である理沙子が、ニヤニヤと頬を緩める。

「そうだな。俺自身も、咲……いや、出水さんに出会うまでは知らなかったよ」

 うっかり下の名前で呼びかけて、慌てて名字に戻したものの……理沙子は決して聞き逃さない。

「なるほど、なるほど。プライベートでは『咲穂』って呼んでいるわけですね~。あぁ、開始三分にしてもうおなかいっぱい! ごちそうさまです」

 彼女のツッコミに周囲がドッと沸く。
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