このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 この一週間ほど、咲穂はただただ彼の行動力に舌を巻くばかりだった。この流れだと、きっとひと月もしないうちに自分は正式に彼の妻になるのだろう。

 頭では理解しているけれど、実感が追いつかなかった。 

(だって、まさかこの私が……)

 咲穂はチラリと隣の櫂を盗み見る。今夜も、一分の隙もなく神々しい。

「ほら、出水さん。素敵な婚約者に見惚れてばかりいないで、シンデレラになった心境を聞かせてよ~」

 理沙子に肘でつつかれて、咲穂はハッと我に返る。どうやら、今日の主役としてあいさつを求められているようだ。ガタンと、勢いよく腰を浮かせる。

「え、えっと。このたび、美津谷CEOの妻をさせていただくことになりまして……」

 しどももどろで言葉を紡ぐ咲穂に、あちこちからツッコミが入る。

「出水ちゃん、緊張しすぎ」
「それじゃ、昇進のあいさつだよ!」

 そう言われても、この場でなにを語ればいいのか、考えれば考えるほどわからなくなっていく。

(えっと、結婚のあいさつなんだから……)

 苦し紛れに、咲穂は叫ぶ。

「み、美津谷CEOを! 幸せにできるよう精いっぱいがんばります」

 咲穂の決意表明に、ドッと大きな笑いが起きた。

「あはは、男前だ~」
「おもしろいなぁ、出水さん」
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