このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
(よかった、ウケた? いや、この場面で求められているのはウケじゃないよね)

 助けを求めるように、隣の彼を見る。すると櫂はスッと立ちあがり、咲穂の話を繋いでくれた。

「すごく嬉しいけど……その台詞は先に俺に言わせてほしかったかな?」

 クスクスと苦笑しながら、櫂は咲穂の左手を取る。そして、みんなに見せつけるようにゆっくりと持ちあげ、そっと唇を寄せた。

 白い甲に口づけたまま、とろけるように甘い瞳が咲穂を見あげる。

「俺が、君を幸せにする。誓うよ」

「ほぅ」という感嘆の声がそこかしこから聞こえてくる。この場の誰もが、彼の完璧な王子さまぶりに酔いしれていた。

 たったひとり、咲穂だけを除いて――。

(演技の才能まであるとか、どこまで超人なの?)

 やっぱり彼は宇宙人なのではないだろうか? 咲穂は疑惑の眼差しで彼を見つめた。

 夜十時半。列をなして流れていく車の赤いテールランプが、夜の街を照らす。

 おおいに盛りあがった会もお開きになり、全員、ほろ酔いのふわふわした足取りでそれぞれの帰途につく。

「咲穂、俺たちはこっち」

 ついうっかり、みんなのあとについて駅まで歩こうとしていた咲穂の腕を櫂が引く。

「運転手が来てくれるから」
「あ、そうでしたね」

 咲穂は小さく肩をすくめ、それから帰っていくみんなを見送った。メンバーの背中が見えなくなったところで、隣の彼がくるりとこちらに顔を向ける。

 さっきまでのとろけるような眼差しはどこへやら……ふたりの間を流れる空気の温度が急速にさがっていく。鬼のような形相で、櫂がこちらをにらみつける。
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