このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 モデル、顔もスタイルも十人並みの咲穂にとっては、口にするのもおこがましいワードだ。課題のひとつだった、リベタスのオープニングCMに起用するモデル。

 先日、櫂から素晴らしい提案がなされたのだ。それは美津谷櫂、自らが務めるというもの。発案者は今回の企画でもモデルのメイクを担当する予定になっているメイクアップアーティストの七森悠哉。彼は企画立ち上げ当初からずっと、櫂以上の適任者はいないと主張していたそうだ。

「私も美津谷CEOがモデルを……というのは大賛成です! 好感度も訴求力も抜群ですから」

 肝心のビジュアルだって人気俳優にも劣らないどころか……はるか上をいっている。さらに、芸能プロダクションに払う莫大なギャラをほかの施策に回すことも可能になる。よいこと尽くめの素晴らしいアイディアだ。

「ですが、共演する女性モデルはプロを起用したほうが……」

 咲穂の訴えを、彼はすげなく却下する。

「ダメだ。今のテレビを観ていただろう? 世間は俺の〝結婚〟と〝相手の女性〟に興味があるんだ。それを最大限に利用しないでどうする?」

(たしかに話題にはなるだろうけど、それだけでいいわけじゃないし……)

 咲穂の思考はちっともまとまらない。

「そう心配する必要はないよ。君の顔ははっきりと映さないよう調整する。必要なのは〝夫婦で共演〟という話題性だけだ」

(エキストラみたいなものってこと? それならまぁ……いや、やっぱり無理が……)

「う~ん」とうなり続ける咲穂を、櫂はあの手この手で篭絡してくる。
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