このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
ゆっくりと、彼も立ちあがる。咲穂より二十センチ近くも背が高いので、こちらは自然と見あげる形になった。
「なんでしょうか?」
「呼び名。変えてくれないか? 家のなかでまでCEOと呼ばれると、くつろげない」
「え? でも、ほかになんて?」
にっこりと笑って、彼は言う。
「俺たちは夫婦なんだから『櫂』でいい」
彼の大きな手が咲穂の横髪を払って、耳に触れる。そこに顔を近づけて櫂はささやく。
「ほら、呼んでみてよ。――咲穂」
自分を呼ぶ彼の声はやけに艶めいて響く。身体中の熱がぶわりと巡って、頬がカッと熱くなった。
「か、い……さん」
動揺を悟られたくないから、自然に名前を呼ぶつもりだったのに……咲穂の声はかすれて、たどたどしい。
(あぁ、もう!)
櫂がその美しい顔を傾けて、咲穂の表情をうかがう。ものすごく満足そうな顔をした彼と目が合った。
「――っ。あ、あのですね! 私は男性に免疫がないだけで、これは別にあなたを好きとかそういう反応では――」
「……なにも言ってないけど?」
意地悪に瞳を細めて、彼はクッと小さく笑う。
(わざとだ。絶対にわざと!)
癪な気分のまま終わりたくないから、反撃を仕掛けてきたのだろう。彼の負けず嫌いぶりと大人げなさを確信して、咲穂は憤る。
(この人を好きになることなんて、絶対、百パーセントありえない!)
「かわいいな、俺の奥さんは」
「まだ奥さんじゃありません!」
「なら、今すぐ役所に行こうか。そうすれば咲穂は〝俺の奥さん〟だ」
「なんでしょうか?」
「呼び名。変えてくれないか? 家のなかでまでCEOと呼ばれると、くつろげない」
「え? でも、ほかになんて?」
にっこりと笑って、彼は言う。
「俺たちは夫婦なんだから『櫂』でいい」
彼の大きな手が咲穂の横髪を払って、耳に触れる。そこに顔を近づけて櫂はささやく。
「ほら、呼んでみてよ。――咲穂」
自分を呼ぶ彼の声はやけに艶めいて響く。身体中の熱がぶわりと巡って、頬がカッと熱くなった。
「か、い……さん」
動揺を悟られたくないから、自然に名前を呼ぶつもりだったのに……咲穂の声はかすれて、たどたどしい。
(あぁ、もう!)
櫂がその美しい顔を傾けて、咲穂の表情をうかがう。ものすごく満足そうな顔をした彼と目が合った。
「――っ。あ、あのですね! 私は男性に免疫がないだけで、これは別にあなたを好きとかそういう反応では――」
「……なにも言ってないけど?」
意地悪に瞳を細めて、彼はクッと小さく笑う。
(わざとだ。絶対にわざと!)
癪な気分のまま終わりたくないから、反撃を仕掛けてきたのだろう。彼の負けず嫌いぶりと大人げなさを確信して、咲穂は憤る。
(この人を好きになることなんて、絶対、百パーセントありえない!)
「かわいいな、俺の奥さんは」
「まだ奥さんじゃありません!」
「なら、今すぐ役所に行こうか。そうすれば咲穂は〝俺の奥さん〟だ」