このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 ふたりのビジネス夫婦生活が幕を開けてから、二週間。十一月も中旬を過ぎ、街はだんだんとクリスマスカラーに染まり出している。

 MTYジャパンコスメティック事業部広報チーム。

「出水さん! 映像素材あがってきたよ」

 タブレットを片手に理沙子が咲穂のもとにやってくる。

「ほら、見て」

 画面を咲穂のほうに向けて、彼女は動画を再生してくれる。
 ずっと取り組んできたリベタスのオープニングCM、誰かが反対してくれるのを心のどこかで期待していたのだが……新婚夫婦となった櫂と咲穂がモデルを務めるという話でトントン拍子に決定してしまった。

 台本・絵コンテ制作と順調すぎるスピードで進み、先週、ついに撮影があったのだ。

 正直、咲穂は緊張しすぎていてなにがなんだかわからないうちにすべてが終わっていた。カメラ慣れしていて、プロモデルのようだった櫂とは大違いだ。

(プロにメイクをしてもらってカメラの前に立つなんて、成人式以来? うん、いい経験になったと思ってもう記憶から抹消しよう)

 咲穂は心のなかでそう決意した。

「はぁ~、生で見ても映像でも、うちのCEOは極上にいい男ね!」

(……たしかに、それは否定できない)

 タブレットの小さな画面のなかで動く櫂の姿に、咲穂の目も釘づけになる。ささいな仕草も気品に満ちていて、圧倒的なオーラを放っている。もし芸能の道に進んでいたとしても、彼はきっと一流になったことだろう。

「あ、出水さんも映ったよ。すっごく綺麗だから、もっとアップでバーンと撮ってもらえばよかったのに」
「いやいや。世間のみなさまが見たいのは、美津谷CEOだけですから」
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