このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 櫂はその稲造氏の子孫だ。小学校までを日本で過ごし、ジュニアハイスクールから大学までは米国。そのままMTYニューヨーク社で働き出し、数々の実績をあげる。米国の経済誌が、その有能さに注目して特集を組んだことも大きな話題を呼んだ。この記事をきっかけに、彼は向こうのセレブリティたちの仲間入りを果たすことになる。

 そんな世界的セレブが日本にやってきた理由は……他国に比べて事業成長が鈍化しているMTYジャパンのテコ入れのため、とのことだ。

 日本法人が傾いた程度じゃMTYニューヨーク本体はこれっぽっちも揺らがないそうだが、美津谷一族は祖国である日本を大切にしているらしい。そこで、有能な櫂が立て直しのために日本法人のCEOに就任した。

 さらにいえば、業績回復のための最初の一手がこのリベタスプロジェクトなのだ。CEO自らが、直接指揮をとっているのもそれが理由だ。

(本来なら私が口をきけるような人じゃないのよね)

 そんな雲の上の存在である彼からNOを突きつけられて、ここからどうすれば挽回できるのか……。咲穂は自分の無力さを噛み締める。

 代わって、櫂に向き直ったのは咲穂の上司である白木理沙子(しらきりさこ)だ。三十七歳、ハイブランドのピアスがとてもよく似合うオシャレな女性。

「マーケット分析は徹底しました。賛否はあるにせよ、大きく外れた企画ではないと自負しておりますが……」

 理沙子の台詞を遮って、櫂は厳しい声を出す。

「この企画の発案者は誰だ?」
「……私、出水です」
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