このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 塔子の右隣にいるのが、櫂の弟である潤。兄より五つ年下の二十六歳でMTYジャパンの営業部に所属している。彼も初めは海外で経験を積み、櫂より一年早く日本にやってきていたそうだ。

(櫂さんとはあまり似ていないな)

 整ってはいるが、線が細くてあまり印象に残らないタイプの顔立ちだった。母と兄がゴージャスなので、相対的にそう見えてしまうだけかもしれないが……。性格もおとなしそうで、今も所在なさげにぼんやりとしている。

 左隣は、その潤の妻である梨花(りんか)。MTYジャパンの秘書課で働いている彼女は、潤より三つ年上の二十九歳。彼女の顔は咲穂も知っていた。秘書課にすごい美女がいる、その噂は出向してきたばかりの咲穂の耳にもすぐに届いたほどだったから。

 スッとあがった目尻と小さくシャープな顎が、高貴な洋猫を思わせる。綺麗に巻かれたロングヘアも、鮮やかなブルーのワンピースも彼女によく似合っていた。

(噂どおりに綺麗な人……でも……)

 梨花は塔子にべったりで、少しおおげさなほどにニコニコしている。その一方で、咲穂には露骨にツーンとそっぽを向く。

ボスである塔子も、当然のように咲穂が気に食わないようで、形だけのあいさつを交わしたあとはろくに会話をしていない。

(櫂さんが大事だから私じゃ納得できない!というのなら、まだいいんだけど)

 残念ながら、そうではない。塔子と櫂の間に流れる空気は親子ではなく、完全に敵同士のそれだった。

(一触即発って、こういうときのためにある言葉なのね)

 塔子はずっと射るような目で櫂をにらんでいる。
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