このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
ピリピリしたムードのなか、咲穂は間違いなくおいしいはずなのに味のしない料理を黙々と喉に流し込んだ。
(今日、なんのために集まったんだろう?)
咲穂の疑問に答えるように、櫂が重い口を開く。ちょうど、みんなが最後のひと皿を食べ終えたところだった。
「これで十分ですね。父には、しっかりと懇親の場を設けたと説明しておきます」
「えぇ、そうね。二度目はなくて結構だわ」
ふたりの表情は、どちらも凍りつくように冷たい。聞こえてくる情報から、今日のこの場は櫂の父親の指示なのだということが理解できた。
(なるほど。お義母さまも櫂さんも望んでいなかったわけね)
だから、こんな空気になってしまったのだろう。
櫂は完璧な作法でナプキンを置くと、スッと立ちあがる。
「では、俺たちはこれで。行こう、咲穂」
「は、はい」
こんな別れ方でいいのかな? そうは思うものの、咲穂が口出しできるような場面ではない。彼に促されて、咲穂も席を立った。そのとき、塔子が初めて咲穂の顔を正面から見て、クスリと皮肉めいた笑みを浮かべた。
「本当に素敵な奥さまだわ。櫂さんには、やっぱり〝庶民の血〟が流れているのねぇ。素朴な彼女と、とってもお似合いよ」
一瞬、なにを言われたのかわからず咲穂はキョトンとしてしまった。
「まぁ、お義母さまったら褒め上手で」
塔子に追従するように、梨花がすぐさまクスクスと笑い出す。見事な腰巾着ぶりだ。
強烈な嫌みを放たれたのだと理解した咲穂は、カッと顔を熱くする。
(私が庶民的なのは事実だから構わないけど、どうして櫂さんにここまで!)
(今日、なんのために集まったんだろう?)
咲穂の疑問に答えるように、櫂が重い口を開く。ちょうど、みんなが最後のひと皿を食べ終えたところだった。
「これで十分ですね。父には、しっかりと懇親の場を設けたと説明しておきます」
「えぇ、そうね。二度目はなくて結構だわ」
ふたりの表情は、どちらも凍りつくように冷たい。聞こえてくる情報から、今日のこの場は櫂の父親の指示なのだということが理解できた。
(なるほど。お義母さまも櫂さんも望んでいなかったわけね)
だから、こんな空気になってしまったのだろう。
櫂は完璧な作法でナプキンを置くと、スッと立ちあがる。
「では、俺たちはこれで。行こう、咲穂」
「は、はい」
こんな別れ方でいいのかな? そうは思うものの、咲穂が口出しできるような場面ではない。彼に促されて、咲穂も席を立った。そのとき、塔子が初めて咲穂の顔を正面から見て、クスリと皮肉めいた笑みを浮かべた。
「本当に素敵な奥さまだわ。櫂さんには、やっぱり〝庶民の血〟が流れているのねぇ。素朴な彼女と、とってもお似合いよ」
一瞬、なにを言われたのかわからず咲穂はキョトンとしてしまった。
「まぁ、お義母さまったら褒め上手で」
塔子に追従するように、梨花がすぐさまクスクスと笑い出す。見事な腰巾着ぶりだ。
強烈な嫌みを放たれたのだと理解した咲穂は、カッと顔を熱くする。
(私が庶民的なのは事実だから構わないけど、どうして櫂さんにここまで!)