このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 すぐに櫂の声が聞こえて、咲穂は振り向く。

「え?」

 思わず声が出た。彼がものすごく大きなバラの花束を抱えていたからだ。百本ほどはあるだろうか。そして、深紅のバラは櫂にとてもよく似合っていて……咲穂の目を釘付けにする。

「君にプレゼントだ」

 言って、彼は花束を咲穂に渡す。

「わ、私に?」
「……驚くところか? この状況で、それ以外だったら逆におかしいだろう」

 櫂はクスクスと愉快そうに笑った。

(でも、この花束……間違いなく、私より櫂さんのほうが似合っているし)

 自分が奪うのは、なんだかバラに申し訳ないような気さえする。とはいえ、プレゼントを突き返すわけにもいかないので礼を言って受け取った。

「ありがとうございます。すごく……綺麗」
「帰ったら、玄関にでも飾ろうか」
「はい!」

 それから少しの間、ふたりは黙ったまま夜景を見つめていた。言葉はなくても、彼も自分と同じようにこの時間を楽しんでいることが伝わってきて、心地のよい静寂だった。

「咲穂」

 低い声が自分の名を呼ぶ。櫂はコホンとひとつ咳払いをしてから、真剣な顔で咲穂を見つめた。

(櫂さん、緊張している?)

 彼が自分を相手に緊張する理由などひとつもないのはわかっているが、そんなふうに見えた。

「これを」

 短く言って、櫂は小さな紺色の小箱を咲穂に差し出す。

「なんでしょうか?」

 答える代わりに、彼は蓋を開けて中身を見せてくれた。小さな箱のなかで、見たことないほどに大きな……ダイヤモンドがきらめいている。

「――え?」
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