このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 自分の企画が採用されたとき、彼女がかけてくれた言葉を思い出す。

『出水さんはクリエイターでしょう? 年齢や実績じゃなく、今ここにある企画で勝負する仕事なんだから遠慮はいらないわ』

 出向してきたばかりで経験も浅い、自分の企画で本当によいのか不安だったが、その言葉に背中を押してもらった。その後はチーム全員で咲穂の企画をブラッシュアップして……みんなの思いを背負って臨んだのに。どうして期待に応えることができなかったのだろう? 悔しくて、たまらない。

(私たち広報チームだって考えていないわけじゃなかった。男性をターゲットにすることの意味はきちんと検討をして……)

 まだ言いたいことがある。納得できない部分が残っていた。咲穂はガタンと席を立つ。

「白木チーフ、すみません。先に戻っていてください」

 会議室を出て、彼の後ろ姿を追った。出向で来ているだけの、ここの正社員ですらない自分が彼に直接声をかけるのはありえないことだとわかってはいる。

(でも、みんなの努力を無駄にするわけにはいかない!)

 せめて、次に繋がるなにかを得なくては。

「美津谷CEO!」

 姿勢のいい、凛とした背中に呼びかける。振り返った彼が返事をする前に、秘書の男性が咲穂の前に立ちはだかる。

「CEO、次のご予定へ」

 咲穂のことは無視していい。秘書が暗にそう告げているのは理解できた。だが、櫂は秘書を手で制して咲穂の前に立った。

「いや、聞くよ。イエスマンな部下は望んでいないしな。……反論があるんだろう?」

 ニヤリと、彼は唇の端をあげた。

「ありがとうございます!」
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