このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 間に受けるなとでも言いたげに顔をゆがめる秘書を無視して、咲穂は続ける。

「少しだけCEOのお時間をください。二週間後に必ず百点の企画をお出ししますので、この時間を無駄にはさせません!」

 櫂はパチパチと目を瞬いたあと、ふっと頬を緩めた。

「君はずいぶんと自信家だな」
「自信はたった今打ち砕かれたばかりでもう残っていませんが……このプロジェクトには私の人生が懸っているので!」

 何度ダメ出しされようとも、諦めるわけにはいかないのだ。

「わかった。大川、先に戻っていてくれ。次の予定には必ず間に合わせるから」

 彼は秘書を帰してしまった。

 ふたりきりになったところで、咲穂は必死に訴える。

「私たち広報チームも男性の顧客を無視したわけではありません。きちんとカレーライスを作ろうとしていました。そこは誤解しないでほしいんです」
「なるほど」

 櫂は腕を組み直す。だが、表情は厳しいまま、眉間のシワは緩まない。

「君たちは男性顧客の顔も思い浮かべた。そのうえで、どうしてあの企画案になるんだ? たしかに、いかにもな女性らしさは排除されていた。だが、君の企画はあきらかに女性に向けて作られていたように思う」

「はい、それも私の発案です。化粧品をいきなり男性に売るのは難しいですよね。まずは女性の間に浸透させる。そして彼女たちの口から『ジェンダーレスで男性も使える商品』であることをアピールしてもらう。この方法がもっとも確実に売上を伸ばしていけると考えたからです」

 咲穂はこの案がただの思いつきではなく、マーケティング調査に基づいたものであることもしっかりと説明する。
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