このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 今、咲穂は櫂の運転する車に乗って、櫂の言う『日本の本家』がある港区南麻布に向かっている。大使館などが立ち並ぶ、高級住宅街だ。

「まぁ親族といっても、今日集まるのは久我の人間のほうが多いくらいなんだが」

 久我家は塔子の実家だ。代々政治家をしている家系だそうで、現職の大臣もいる。美津家と釣り合いのとれる数少ない家門のひとつだろう。

「お父さま方のご親族は少ないんですか?」
「決して少なくはないんだが」

 美津谷の血縁者は、生活基盤を完全に米国に移していて日本との縁は薄くなっているケースがほとんどなのだそう。なので日本での集まりに参加するのは、塔子の実家関係者が多くなるらしい。

「今日、櫂さんのお父さまは?」
「欠席だ」

 当然のように彼は答える。

「MTYニューヨークの代表ですもんね。そりゃ、お忙しいに決まっていますよね」

 咲穂にとっては一流企業であるMTYジャパンも、櫂や彼の父にとっては数多ある海外法人のひとつにすぎない。櫂だって、きっといつまでも日本にいるわけではないのだろう。その日を思うと、鼻の奥がツンと痛むような気がした。

「もちろん多忙もあるが……継母があえて、父が出席できない日程に組んでいるせいもあるな」

 苦い笑みで彼はそう暴露する。

「え、どうして?」
「あのふたりは政略結婚だからな。あまり関係がよろしくない」

 塔子と櫂の関係性がよくないのも、その辺りに原因があるのかもしれない。

(だって好きな人の子どもなら、血の繋がりがなかったとしても仲良くしたいと考えるよね?)
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