このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 咲穂は言い訳がましく言った。完全に嘘というわけではない。今日ここに来ているのは、本来なら咲穂が口をきくこともできないようなVIPばかりで……もちろん緊張はしている。でも、自分以上に櫂の様子が心配だった。手を繋ぐことで、少なくともひとりは味方がいると彼に知ってもらいたかった。

 照れたようにほほ笑んで、彼が咲穂の手を取る。

「――ありがとう」
「変な櫂さん。お礼を言うのは私のほうですよ」

 察しのいい彼は、きっと咲穂の思いに気づいたのだろう。だけど咲穂はなにもわかっていない顔を続けた。

 果てが見えないように思える長い廊下で立ち止まり手を繋いでいると、世界にふたりきりになったような錯覚におちいる。

「さてと、じゃあ戦場に向かうとするか」

 いつもの余裕を取り戻した彼の笑みが、咲穂を安堵させる。

「はい、おともしますね!」

 外観は完全に西洋風だが、内部は和洋折衷。法事は畳敷きの広々とした和室でとり行われた。法要を終えたのちは、歓談しながらみなで昼食をとる。

 正直、先日の中華料理店での会食よりさらに……塔子の態度はひどいものだった。

「美津谷の次期当主は潤ですから。みなさまも、どうぞそのおつもりで」

 塔子に扇動され、彼女の親族である久我家の人々は櫂をまるでいないものとして扱い、弟の潤ばかりをチヤホヤする。

 前妻の子。ただそれだけで、櫂がこんな扱いを受けるなんて……咲穂はフツフツと湧く怒りを抑えきれなくなりそうだった。

(くだらない。子どものイジメと同じじゃないの)

「あら。ごきげんよう、咲穂さん」

 完全に空気扱いされている咲穂のもとに近づいてくるのは梨花だけだ。
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