このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「けど咲穂さん、別に大和撫子タイプじゃないか」
「――今のは、ちょっと失礼だと思いますけど」
咲穂は軽く口をとがらせる。
「あはは。ごめん」
潤と笑い合いながらも、彼の発した『兄貴が昔好きだった女』という単語が咲穂の頭のなかをリフレインしていた。
(いや、好きだった人くらい当然いるよね。昔って……単語の意味的には、小学生時代とかも含まれるわけだし)
そもそも、自分が櫂の過去を気にするのはおかしい。その事実には気づかないふりをする。
「咲穂っ。よかった、ここにいたのか」
その声でようやく、咲穂は我に返る。
潤と話をしていた廊下に櫂が小走りでやってくる。お手洗いに行くとしか告げていなかったので、遅いと心配してくれたのかもしれない。
「すみません。潤さんと少し話をしていて」
櫂の視線が咲穂から潤に向く。潤はおおげさに首をすくめて、おどけた声を出す。
「そんな怖い目でにらまないでよ。ただ雑談してただけだから」
「別ににらんでないぞ。妙な邪推をするな」
「いやいや、邪推じゃないでしょ。兄貴がそんな嫉妬深い男とは知らなかったな」
否定しない櫂を見て、潤はクスリとする。それから片手をあげて「またね、咲穂さん」と和室に戻っていった。
「すみません、ご心配をおかけして」
咲穂が頭をさげると、櫂はゆるゆると首を横に振った。
「いや、一緒にいたのが潤ならいいんだ。久我の誰かに嫌がらせでもされているんじゃないかと焦った」
咲穂は驚いたように目を丸くする。中華料理店では、櫂と潤はまったく会話をしていなかったのであまり関係がよくないのかと想像していたのだ。
「――今のは、ちょっと失礼だと思いますけど」
咲穂は軽く口をとがらせる。
「あはは。ごめん」
潤と笑い合いながらも、彼の発した『兄貴が昔好きだった女』という単語が咲穂の頭のなかをリフレインしていた。
(いや、好きだった人くらい当然いるよね。昔って……単語の意味的には、小学生時代とかも含まれるわけだし)
そもそも、自分が櫂の過去を気にするのはおかしい。その事実には気づかないふりをする。
「咲穂っ。よかった、ここにいたのか」
その声でようやく、咲穂は我に返る。
潤と話をしていた廊下に櫂が小走りでやってくる。お手洗いに行くとしか告げていなかったので、遅いと心配してくれたのかもしれない。
「すみません。潤さんと少し話をしていて」
櫂の視線が咲穂から潤に向く。潤はおおげさに首をすくめて、おどけた声を出す。
「そんな怖い目でにらまないでよ。ただ雑談してただけだから」
「別ににらんでないぞ。妙な邪推をするな」
「いやいや、邪推じゃないでしょ。兄貴がそんな嫉妬深い男とは知らなかったな」
否定しない櫂を見て、潤はクスリとする。それから片手をあげて「またね、咲穂さん」と和室に戻っていった。
「すみません、ご心配をおかけして」
咲穂が頭をさげると、櫂はゆるゆると首を横に振った。
「いや、一緒にいたのが潤ならいいんだ。久我の誰かに嫌がらせでもされているんじゃないかと焦った」
咲穂は驚いたように目を丸くする。中華料理店では、櫂と潤はまったく会話をしていなかったのであまり関係がよくないのかと想像していたのだ。