このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「……潤さんと仲良しだったとは知りませんでした」

 櫂は控えめな笑みで答える。

「俺とあいつが親しくすると継母が機嫌を悪くするからな」

 前回話していなかったのは、それが理由だったのだろう。

「仲良しというほどでもないが、このなかで〝敵じゃない〟と断言できるのは、潤と……」

 そこで言葉を止め、彼は甘やかに咲穂を見つめる。

「咲穂だけだ」

 昼食を終えて、午後三時前には散会になった。「疲れたから甘いものでも買って帰るか」という櫂の提案で麻布十番の街に出て、咲穂は苺のショートケーキ、櫂は濃厚ショコラのオペラケーキを買う。

 マンションに着いたのは、三時半頃。アフタヌーンティーにちょうどいい時間だったので、咲穂は紅茶を入れることにした。

「わぁ、高級そうな茶葉がいっぱい」
「今あるのは、ダージリンとアールグレイだったかな? 好きなほうを使って」

 咲穂が紅茶を準備する間に彼はケーキをテーブルに並べてくれた。

 リビングソファに座り、ふたり揃って「ふぅ」とひと息つく。

「櫂さんのオペラもおいしそう!」
「苦行に付き合わせた礼に、ひと口どうぞ」

 櫂は自分の皿をススッと咲穂のほうに押す。

「苦行なんてことはないですが……ケーキは遠慮なく!」

 咲穂は櫂のオペラケーキに手を伸ばす。
 カカオの香りが口いっぱいに広がり、緊張でこわばっていた心がほどけていく。隣の櫂の表情も柔らかだ。

「甘いものを食べると幸せな気分になりますよね」
「あぁ」
「よかったら、私のショートケーキもひと口どうぞ」

 ケーキを半分ほど食べ終えたところで、咲穂はしみじみとつぶやいた。
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