このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「なんていうか、セレブにはセレブの苦労がやっぱりあるんですよね」
「潤からなにか聞いたのか?」
「梨花さんとの結婚、お義母さまが強引に決めたものだって」
咲穂の言葉に櫂はうなずく。
「穂高さん、まぁ今は美津谷だが……彼女はもともと継母に従順な今岡専務の秘書だったんだ。潤派の派閥をしっかり固めたい継母と、玉の輿狙いの穂高さんの利害が一致した。多分、そこに潤の意思が入る余地はなかったんだろうな」
櫂は優しい表情になって続けた。
「潤は昔から絵を描くのが好きで、才能もあった。本当はそっちの道に進みたかったんだと思う。美津谷の家に生まれたのは、あいつにとっていいことだったのか……」
櫂の言葉は重い。
「櫂さんも、そんなふうに思ったことがあるんですか?」
言ってしまってから、咲穂はハッとする。不躾な発言だったかもしれない。だけど、潤の苦しみはそのまま櫂の苦悩でもあるように感じたのだ。
苦い笑みが櫂の顔に浮かぶ。それが答えのように思えた。
「すみません、出すぎた発言でした。忘れてください」
自分の不用意なひと言が、きっと彼の傷痕をえぐった。申し訳なくて、咲穂は絞り出すような声でそう告げた。だが――。
「いや。咲穂には知っておいてほしい。過去も、そして現在も。君は俺の妻で、ともに闘う大切なパートナーだから」
咲穂がうなずくと、彼は静かな声で語り出す。
「たしかに、あの家のことは……好きではなかったな」
もう、そのひと言だけで櫂が長年抱えてきた寂しさがありありと伝わってきた。
「潤からなにか聞いたのか?」
「梨花さんとの結婚、お義母さまが強引に決めたものだって」
咲穂の言葉に櫂はうなずく。
「穂高さん、まぁ今は美津谷だが……彼女はもともと継母に従順な今岡専務の秘書だったんだ。潤派の派閥をしっかり固めたい継母と、玉の輿狙いの穂高さんの利害が一致した。多分、そこに潤の意思が入る余地はなかったんだろうな」
櫂は優しい表情になって続けた。
「潤は昔から絵を描くのが好きで、才能もあった。本当はそっちの道に進みたかったんだと思う。美津谷の家に生まれたのは、あいつにとっていいことだったのか……」
櫂の言葉は重い。
「櫂さんも、そんなふうに思ったことがあるんですか?」
言ってしまってから、咲穂はハッとする。不躾な発言だったかもしれない。だけど、潤の苦しみはそのまま櫂の苦悩でもあるように感じたのだ。
苦い笑みが櫂の顔に浮かぶ。それが答えのように思えた。
「すみません、出すぎた発言でした。忘れてください」
自分の不用意なひと言が、きっと彼の傷痕をえぐった。申し訳なくて、咲穂は絞り出すような声でそう告げた。だが――。
「いや。咲穂には知っておいてほしい。過去も、そして現在も。君は俺の妻で、ともに闘う大切なパートナーだから」
咲穂がうなずくと、彼は静かな声で語り出す。
「たしかに、あの家のことは……好きではなかったな」
もう、そのひと言だけで櫂が長年抱えてきた寂しさがありありと伝わってきた。