このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
四章 幸福な錯覚
四章 幸福な錯覚


 年が明けて一月。三が日は過ぎたもの、まだ正月気分を残したような、まったりモードの日曜日。

 柔らかな朝日が差し込むダイニングで、ふたりは朝食をとっていた。メニューは焼き立てのクロワッサンとミルクたっぷりのカフェオレ。

「いい朝ですねぇ」
「そうだな」

 一緒においしいものを食べて笑い合う。それだけで胸が温かくなって、幸せという言葉の意味を実感する。

 テレビのなかでは、休日の朝にありがちなのんびりとした旅番組が流れている。

「咲穂の地元の温泉、いつ行こうか? 結局、この年末年始は帰省できなかったしな」
「私は来月のリベタスの発売日が過ぎれば休暇も取れそうですけど。櫂さんは難しいんじゃないですか?」

 咲穂と違って、彼は社内のほかの案件にも目を配らなくてはならないから。

「それを言っていると永遠に休めないからな。咲穂に合わせて俺も休む」

(この会話、なんだか本物の夫婦みたいだな)

 心に浮かんだその思いはくすぐったくて、少し痛い。

「あ、うちのCMだ」

 櫂の目がふたたび、テレビのほうに向く。彼につられて、咲穂をそちらに首を振った。

 今月から放映が始まったばかりの、リベタスのオープニングCM。櫂と咲穂が出演したものだ。といってもメインはあくまでも櫂で、咲穂は後ろ姿や横顔が一瞬だけ映る程度。よほど親しい人間以外には気づかれることもないだろう。

(櫂さん。やっぱりオーラあるなぁ。瞳の輝きが強いからかな?)
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