このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 画面に大きく映る櫂のアップ、ため息が出るほどに素敵だった。

 短いが印象に残るスタイリッシュな映像を、リベタスのかっこいいロゴが締める。

「ふふ。我ながら、完璧な出来栄え!」

 目にするたびに頬を緩む。

「評判も上々だしな」

 櫂も満足そうだ。テレビCMだけでなく、少し長めのWEB広告用も流れているのだが、そちらは若い世代を中心に反響を呼んでいる。

「……櫂さんのもくろみ、想定以上の効果でしたね!」

 カフェオレの入ったマグカップを口に運びながら、咲穂は小さく肩をすくめる。

 夫婦共演を匂わせたら、絶対に話題になる。櫂のその作戦は期待をこえる成果をあげた。断言せずに〝らしい〟で止めておいたのが、結果的に成功の秘訣になった。

「朝の情報番組でも、昼のバラエティーでも、ネット上のニュースサイトでも、いまだに話題になっていますよ」

 少ししか映らない咲穂の映像に注目して、『この女性が美津谷CEOの奥さまらしいんですよ!』とコメンテータ―が鼻息荒く解説する場面を何度も見た。

「あれ、嬉しくないんですか?」

 咲穂は首をかしげて櫂の顔をのぞく。

 彼にとっては〝してやったり〟な状況かと思ったのだが、なんだか微妙な表情をしている。

「宣伝が成功しているのは嬉しいが……ちょっと……思っていた以上に君に注目が集まっているのが気がかりだ」

 どうやら、咲穂の身を案じてくれているようだ。

「ありがとうございます。でも、大丈夫だと思いますよ。ネットの口コミとかも、おおむね好意的ですし」
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