第一幕、御三家の桜姫
「わ、かった……用意、してくる……」
「あ? いいよ、わざわざどっかから運ぶなんて面倒だろ?」ふん、と小馬鹿にしたように笑いながら肩を竦めて「お前が退けばいい」……出ていけ、と。
本来、この学校では普通の生徒の意見なんて羽虫の羽ばたきほどの注意も払われない。相手が生徒会役員となれば尚更だ、それなのに──。
「っ、くそっ」
赤木くんは机の上に広げていた勉強道具を乱暴に掻き集めてカバンに突っ込み始めた。片付け終えた後は隣の席に座っている女子に向かって口を開いたけれど──。
「俺の視界に入るなよ。テストなんだから廊下でも受けられるよな?」
椰くんの冷ややかな声がそれを遮る。赤木くんは唇を噛んで、一度ぐっと押し黙った。
「このっ……御三家だからって調子乗んなよ! お前らなんて、すぐに生徒会が潰してやるからな!」
「ほざけ下っ端。ほら早く出て行け」
桐椰くんに、しっし、と手を振られ……赤木くんは本当に出て行った。私は終始呆然と口を開いたままその様子を静観していたけれど。
「で、お前は席あんの?」
桐椰くんがそれを許してくれない。
「え? あー……ある、けど……」
赤木くんの席を強奪した桐椰くんと違って、私の机はきちんとあった。しかも桐椰くんの隣にだ。いつもと席が違うのは、私の机の上には落書きがされていて、そんな机で試験を受けたい人はいないからだろう。
私の視線を辿ってその机の存在に気付いた桐椰くんは、少し考えるように眉間の皺を深くした。
「おい、代われ」
「え?」
そして、目の前に座る木之下くんの椅子を蹴った。木之下くんは「お、俺?」怯えながら振り返る。木之下くんがおどおどしているのはなにも桐椰くん相手に限ったことではないのだけれど、一応生徒会役員だ。