第一幕、御三家の桜姫
 ゾクッ、と、背筋が震えた。しまった、そうだ、一緒になってぐれてた松隆くんが”幕張匠”の存在を知ってるのに、桐椰くんが知らないはずがない。


「え、あ、う、うん、まぁ、」

「アイツがどこの高校行ったか知ってるか?」


 食いつくような訊き方に、視線を泳がせながら「さぁー」と首を傾げて見せる。


「ほら、私って超平凡な徹頭徹尾優等生って感じじゃないですか。幕張匠なんて暴れヤンキーがどうしたかなんて知りませんよー」


 松隆くんが知る幕張匠にはもう一つの側面がある──彼は、少し前までは市を跨いで暴れていた有名な不良(ヤンキー)だった。

 財閥の息子が不良だなんて有り得ない、財閥側も不良側もそれぞれそう同一人物であることをを否定した。実際、不良である幕張匠について知られているのは、本当は二人組だということだけ。



「……あっそ」

「何で? 気になるの? あっ桐椰くんヤンキーだもんね、もしかして昔コテンパンにやられて仕返ししたいとか?」

「お前俺のことなんだと思ってんだよ。別に、普通に会ってみたいだけだよ」

「えー、それにしては食いついたくせに」


 「何かあるんじゃないのー?」とわざとらしく顔を覗き込むけど、無視だ。代わりに今度こそシャーペンを握って、「早く書き出すぞ」と話題を変えてしまった。桐椰くんと幕張匠の間になにがあるのかは知らないけれど、桐椰くん自身が追及してこないならそれに越したことはない。

 まだ少し落ち着かない心臓を少しでも落ち着かせようと、思わず膝の上で拳を握りしめる。


「んじゃ、とりあえず情報書き出すか。部活あたりからいくとして……帰宅部だよな」

「そうだよ……生徒会に虐められちゃったから……」

「俺も中学から帰宅部だから」

「え、引きこもり?」

「世の帰宅部に謝れよ。野球部にいたけど、他校と喧嘩して辞めさせられたんだよ」


 確かに部活にそんな問題児いたらそうなるよね……。


「何でそんなに問題ばっかり起こしてるの? 反抗期?」

「お前俺のこと馬鹿にしてるだろ」

「気になっただけだよう」

「……別に、気に入らないことなんて世の中いくらでもあるだろ」

「意味深ですね」

「底が見える人間なんてつまんねーだろ。ほら次、スマホの機種は」

「アンドロイド」

「同じくだ」
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