御三家の桜姫


 そんな感じでリストアップしていくこと数十分後、完成したメモを片手に桐椰くんは立ち上がる。


「んじゃ、粗方(あらかた)これでいいだろ。俺は帰るから」

「えっ私も帰るよ! 二分待って」


 なぜ私がここに留まると思ったのか、当然のように置いていこうとする桐椰くんの腕を掴んで引き留める。あからさまに迷惑そうな顔をされたけど、たった二分って言ってるじゃん。ケチ。


「遼くん、それだから彼女できないんだよー?」

「余計なお世話だ。お前もその格好どうにかしねぇと彼氏できねぇぞ」

「ふっ、今の言葉、服装さえ直せば私に彼氏ができる……つまり私は素材そのものは完璧にモテ――ねぇスルーして帰るのは酷いよ! 待ってよ!」


 遂に暴力すらふるわず出ていってしまった桐椰くんを慌てて追いかける。鍵を閉めろと怒られ、慌てて閉めてる間にもスタスタおいてけぼり。追いついた時にはもう校舎さえ出て歩き始めていた。校舎の鍵を閉めるのも待ってくれない。


「遼くんてばー。私遼くんの彼女だよ、彼女!」

「文化祭まで期間限定のな」

「期間限定でも彼女は彼女なんだから優しくしようよ。そんなんだから蝶乃さんにフラれるんだよ」

「蝶乃は関係ねぇだろ!」


 立ち止まって振り向き、赤面しながら叫ぶ。からかいがいのある反応をしてくれるものだ。お陰で漸く追いつけた。


「あっ、ねえねえ! 質問の定番忘れてた!」

「あ? なんだよ、メモるから早く言え」

「遼くんの将来の夢!」


 (ひらめ)きました! とその顔を指差すと、桐椰くんは珍味でも食べさせられたような顔をした。


「……将来の夢?」

「将来の夢! ないならないでいいよ、捏造(ねつぞう)しようよ」

「別にないわけじゃねぇけど……」

「じゃあ教えてよ」


 カバンから質問をメモした紙を探す。その間に考えておいてと言うつもりだったのだけど、予想に反して桐椰くんは答え方を思案しているようだ。


「……父親になること」

「ふぅん、なるほど。……ごめん、何になること?」

「だから言いたくなかったんだよ! やっぱいい、今のナシ。捏造(ねつぞう)するから待て」


 反射的に頷きかけて――間違えたことに気付いた。なんだって? でも聞き返された桐椰くんは蝶乃さんとの話をされた時と同じように少し顔を赤くする。ただ、その表情はただ恥ずかしいというより、少し寂しそうだった。そんな表情をされてからかうほど私も馬鹿じゃない。

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