御三家の桜姫

(四)契約期間においては、互いに不必要な疑問を抱いてはならない

 桐椰くんの彼女だと公式発表 (?)をされて以来、擦れ違う花咲生の視線と声が突き刺さるほどに痛い。主に私の容姿に関する悪口。その点に関してはもう定番だしありきたりだし、桐椰くんも「事実だしな」と頷いた。とりあえずペチンと叩いたら仕返しにギュウウッと頬を掴まれた。

 次に、私と御三家との関係。笛吹さん事件で私だけを守ったのはやっぱり私が桐椰くんの彼女だからだったんだ、御三家のリーダーたる松隆くんの彼女ではないとはいえ、メンバーの彼女である以上、御三家の姫たる地位にいるに違いない、と。御三家の誰に対しても主従契約を結び、いいように呼び出されては使われる私はただの下僕(げぼく)だ。

 現に、今しがた月影くんからメッセージが届いて「今年の文化祭カップルコンテスト企画の詳細情報を手に入れた。内容を叩きこむために放課後は第六西に来い」と。問答無用で命令されるほど低い姫の地位に改めて心で泣いた。

 というか、入学して初めてできた友達にはあっさり裏切られるし、生徒会には虐められるし、助けてくれた御三家とは下僕契約を結ぶ羽目になるし。私の高校生活は一体どうなってるんだ。

 桐椰くんと揃って第六西に行くと、いたのは月影くんだけ。松隆くんは今日も予定があるのだそうだ。月影くんは無駄話は不要とばかりにすぐに文化祭のプリントを差し出した。プリントには各日の演目が書かれている。


「『相性はいかが?』は好きなものの一致度だよね。『仲良し新婚さん』ってなに?」

「共同で料理を作る競技だ。審査員を満足させる料理を作ればいい」

「めんどくせえな。コイツ料理下手そうじゃん」

「失礼な! ……そんなに下手じゃないよ」

「ほらみろ絶対上手くねぇと思った」

「そういう遼くんはどうなの!」

「得意だよ。文句あっか」

「……ばーかばーか!」


 桐椰くんは母子家庭らしいから、忙しい母親に代わって料理をしていたのだろう。一方私は料理なんてまともにしたことがない。手先も不器用だ。


「……それって片方だけが美味しいの作ればいいとか……」

「共同料理と俺は言わなかったか? 共同で作らなければ点数はなしだ」

「くっ……」


 月影くんの冷ややかな声が現実を突き付けてくる。料理できないから役に立たないなんて、字面だけ見れば当然のことが今は受け入れがたい。

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