第一幕、御三家の桜姫



「……じゃあ遼くん料理教えてよ」

「やだね」

「ケチ! 私カノジョなのに!」

「期間限定のな!」

「仲良くなるために予行演習でもしてたらどうだ?」

「ナイスアイディア月影くん!」

「余計なこと言うんじゃねぇよ!」

「えー、そんなに私に教えるのイヤなの? あっ、不器用な彼女アピールでポイント稼ご!」

「一般に不器用という低価値で高評価を得られるのは顔面偏差値の高さゆえだ」

「なんでそんな酷いことサラッと言えるの? ねぇ!」

「下僕には人権がないから何でも言えて気楽でいいよな」

「ところがどっこい、みんなには姫呼ばわりされてるんですよ」

「お前が姫……って、誤解以外のなにものでもないよな……」

「……ばーかばーか!」


 ふんっ、とソファに沈みこんだけれど、月影くんに「ついでに用事を頼まれろ」とパシられてしまったのですぐに立ち上がるはめになった。渡された付箋によれば、また生徒会室からものを盗んで……いや借りてこいと。


「今から行くの?」

「いや、あと八分後に向かえ。生徒会室から出てくる連中と出くわすと困るからな」

「資料だけじゃなくて私の身の安全も心配してほしいな?」


 生徒会役員に捕まったらそもそも私が危ない目に遭っちゃうんだよ? なんて小首を傾げたけれど、月影くんは無視。桐椰くんは呆れた顔を向けた。


「お前まさか本気で姫だと思ってんの? 最初から言ってるだろ、俺達がお前に期待してるのは“男にできないことをやる”こと。|愛玩具(ペット)が欲しいなら他当たってら」

「言い方! 遼くん言い方に気をつけよ! だから蝶乃さんにフラれるんだよ!」

「だからそれは関係ねぇだろ! お前次それ言ったら生徒会に売るからな!」

「ヤダその脅し文句! そんなことしたら私だって遼くんが蝶乃さんに未練タラタラだって言いふらすもんね!」

「それはただの嘘だろ! んなことしたらマジで退学させっからな!」

「総がいないからといって低レベルな喧嘩はやめないか。早く行け」


 渋々、私と桐椰くん (見張り)は生徒会室へ向かう。予定通りの時間になってから、桐椰くんが鍵を開け、私が中に入り、猪股という副会長の机を漁る。施錠された引き出しもあるけれど、月影くんが鍵をくれた。どうやって手に入れたのかは知りたくなかったから聞かなかった。

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