第一幕、御三家の桜姫
「これは興味本位なんだけど、なぜ、君は御三家に協力してるんだ?」
「……なんでって。そりゃあ……」
生徒会から守ってもらう代わりに下僕になる契約を結んだから。桐椰くんと付き合っているから、または付き合っていることになっているから。そのどちらを答えるべきか悩んで詰まっていると「関係じゃなくて、そもそもの君の動機の問題だよ」と見透かされた。
「生徒会にいじめられないためなら、指定役員でもよかったのに、誘いに乗らなかったんだろ?」
なぜだい? と聞こえてきそうな声で。
「親が金持ちってだけで威張ってる生徒会役員になるなんてごめんだった? 歌鈴に従うなんて考えるだけでも虫唾が走った?」
答えに窮している私を追撃するように。
「幼馴染の死に苦しんでいる御三家に、同情した?」
雰囲気とは裏腹に、あまりにも繊細な部分を容赦なく踏み荒らすその卑劣さに、睨み付けずにはいられなかった。
「……鹿島くんは、透冶くんが亡くなった理由を知ってるんだよね?」
「知っているとも。で、君は、どうせこう聞いてるんだろ? 御三家の幼馴染の一人が生徒会に殺されたって」
そのとおりだ。そのとおりであることに何の問題もないのに――。
「本当だと思うか?」
揺さぶりをかけられ、ドキンと心臓が跳ね上がった。
「いくら金の力があるって言ったって、本当に人の死を――殺人を、この学校が握りつぶすことができると思うか? よりによってあの松隆の幼馴染の死を」
それは、そうだ。透冶くんの家がお金持ちでもなんでもないただの一般家庭だったとしても、人ひとり死んでいることに変わりはない。しかも財閥の御曹司の幼馴染だ。そんな人の死を揉み消せるわけが――。
揺さぶりどおりに疑問を抱いてしまっている自分にハッと気が付き、慌ててかぶりを振った。聞いちゃだめだ。
「雨柳の――|事故は確かに残念だった。ただその事故について、当時の状況も何も知らない君が生徒会を敵視して御三家の味方ぶって暴く、理由はなんだい?」
何も答えられない。図星をつかれたというのとは少し違うけれど、痛いところを突かれた。
そうして詰まってしまった私を、鹿島くんはせせら笑った。
「……なんてね。君が歌鈴達に嫌がらせを受けていた話は聞いていたから。そんなことをされたら御三家側につくのが当然だなんて言われたら、まあ一応の納得はするよ」
私が御三家側についている理由なんてどうでもよかったかのように――ただ御三家側に揺さぶりをかけたかっただけかのように――鹿島くんはその一言を最後に私に背を向けた。
「じゃ、そういうことで。コンテスト前にどんなヤツか見たかったから、会えて良かったよ、桜坂」
鹿島くんは職員室に体を向け、顔だけ私を振り返って。
「次はコンテストで会おう。松隆たちによろしく」
職員室の中へ消えた。
月影くんは、知らない私を信用しないと言った。
じゃあ、私は? 私は御三家のことを知らないのに、御三家を信用していいのだろうか? 鹿島くんの言うことのほうが筋が通ってるのに、このまま御三家の言い分を信じて、御三家側についていて、いいのだろうか?
……いや、やめよう。考えようとして、思考を止めた。
御三家の企みがなんであれ、御三家が私を守ってくれる限り、私は従う。ただ、それだけだ。