第一幕、御三家の桜姫
三、道化師に祈りを
「おねーちゃん、今日から文化祭なの?」

「あ、うん。言ってなかったっけ?」

「んー、聞いたかも? ま、いーや。花高って招待券とか要る?」

「要るよ。持ってるけど、何枚かあげようか?」

「うん、ちょーだい」

「何枚?」

「んーっと、ゆみのと、康香(しずか)のと、咲璃(えみり)の」

「三枚か……じゃあ余分にもう一枚渡しとくね」

「はーい、ありがと!」


 カバンの中を探って優実(ゆみ)に四枚の文化祭招待券を渡した。黒髪ストレートでサラサラのツインテールが嬉しそうに揺れる。


「おねーちゃん何組だっけ?」

「四組。和風喫茶やってるよ」

「やった! 何時にいるの?」

「準備しかしないからあんまりいないかな……三日目は十二時までいるよ」

「三日目って日曜日だよね? じゃー三日目に行こーっと」


 むぐむぐとリスのようにロールパンを頬張って、優実は立ち上がる。


「じゃあいってきまーす」

「優実、お弁当は?」

「あ、忘れてた。……よしっと。あとおねーちゃん、あたしが花高の文化祭に行くの、おかーさんにはナイショね! もし訊かれたらおにーちゃんのとこに行ったって答えてね!」

「うん」


 母がたまたま不在なのをいいことにしていた優実は、その細い指を唇に当ててポーズを作った。


「じゃー行ってきます。文化祭楽しんでね、おねーちゃん!」
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