第一幕、御三家の桜姫

「遼くん! こんなことしてたらカップルじゃないってバレるからね! 私が可愛いからってあんまり虐めちゃだめなんだよ!」

「やべぇ……殴りてぇ……」

「ところで松隆くん、私はコンタクトになったりお化粧したり制服着替えたりしなくていいの?」

「あぁ、それは最終日のコンテスト時間だけにしよう。ここ数日間、桜坂はそのダサ──落着きある恰好で遼の隣を歩いてたから、その姿が生徒の目に焼き付いてるはず。観客の驚きも利用しよう」


 松隆くんのにこやかな口から罵倒の端くれが聞えたけど、聞えなかったことにしよう。


「そういえばお化粧って誰がしてくれるの? 私お化粧の仕方分からないんだけど」

「はぁ!? それでもお前女子かよ!」

「なんだと失礼な! お化粧しない女子がいちゃ悪いかね!」


 桐椰くんはお化粧をしっかり綺麗にしてる蝶乃さんを見慣れてたからそんなことを言うんだろう。決して私は少数派ではない……はずだ。現に松隆くんは動じない。


「遼、黙って。想定済みだよ。ちゃんと知り合いに頼んでるって」

「さすが松隆リーダー!」

「日頃からガサツな女子が自分の素顔を上手く使った化粧ができるなんて微塵も思っちゃいないよ」

「ねぇ松隆くん……折角さっき思いとどまったんだから酷いこと言うのやめてくれないかな……」

「ただの事実だろう。文句をつけるな下僕」

「月影くんも悪口言うためだけに口挟まなくていいんだよ!」


 憤慨してみせれば「残念ながら俺の周りに群がるのは多少なりと着飾った女子だけだったからな」とよく分からない補足をされた。


「さて、二人とも。主従関係はここまで」


 松隆くんが締めくくるけど、最早私と御三家の関係にツッコミを入れる気力もない。


「勝負の始まりだ」

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