第一幕、御三家の桜姫
「カップルコンテストご参加ですか? 氏名をお願いします」
「桐椰遼」
「桜坂亜季」
「はい、ありがとうございます! ではこちらをどうぞ。参加確認証になるので絶対になくさないでくださいね」
事務的に渡されたのはブレスレットだ。私が右手、桐椰くんが左手につけて、それを更に金具で固定する。掌が合わさってるけど断固として握らない私達を見た企画役員の子が頬をひきつらせた。
「……えっと。みなさん手を繋いでますけど」
「知るか」
「だめだよ遼くん、審査員の一員には媚び売っていこ」
「そういうのは小声で言えよ!」
「まぁ手繋いでなくてもいいんだけどー」
間延びした語尾にハッと私と桐椰くんは顔を向ける。事務を執り行う子の後ろで椅子に悠々と座っているのは飯田さんだ。文化祭に備えて髪を染め直したらしく、くりんくりんと指先で遊ぶのはピンク色の毛先だ。
「そのブレスレット、けっこー壊れやすいんだよねー。ウチの特注なんだけどー」
さすが希望役員。
「千切れちゃったらその時点で失格だからー。手繋いだほうが無難かもよー」
「っざっけんな畜生! 何で俺が──」
「遼くん、そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃん。はい、繋ご繋ご」
「んー、そのほうがいいと思うよー」
桐椰くんの手が握力測定かってくらい強く握ってくる。怒りのせいだとしても私の手に八つ当たりするのはやめてほしい。
「全く大人げないなあ遼くんは」
「はぁ?」
「競技なんだからさ、みんなの前でイチャこくのが恥ずかしいのは分かるけど割り切って行こうよ。ネッ遼くん!」
「テメェ終わったらぶち殺す……」
ここぞとばかりにハハンと桐椰くんを虐めれば余計に手に力が籠った。桐椰くんってば、左利きでもないのに何でこんなに力が強いのだ。
「あーらら。競技開始前から喧嘩なんてしてて大丈夫?」
クスクスなんて擬態語が聞えてきそうな笑い方と共に登場したのは蝶乃さんだ。連携プレイなにそれ美味しいの?ってくらい息が合わない私と桐椰くんがほとんど唯一「ゲッ」と声を合わせる。蝶乃さんも文化祭に合わせたのか、本日は黒髪ストレートロングをツインテールにして毛先を軽く巻いてる。自慢のサラサラストレートはそんな使い方もできるらしい。桐椰くんが舌打ちした。
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