第一幕、御三家の桜姫
他のカップルは私達みたいに本気勝負じゃないから、まだパンフレットを覗き込んで思い思いにどこを回るか話してる。中にはチェックポイント以外にも回る場所を話してるから、これがカップルコンテストなんだと改めて思った。BCC受付の教室を出れば、廊下は試運転日らしく駆けずり回る生徒がたくさんいる。和服姿の赤井くんと途中で擦れ違えば舌打ちされた。桐椰くんがすかさず胸倉を掴めばことは収まった。
「遼くん、その粗暴さは直したほうがいいと思うけど」
「あぁ? うるせーな、俺の勝手だろ」
「ぶっぶー。BCCの間は遼くんのマイナス評価が私達を優勝から遠ざけるんですー」
「…………」
認めたくないけど事実だと思ったのか返事をできずに桐椰くんが唇を固く結んだ。
本校舎から出発して向かうは第三校舎の二階。本当に桐椰くんと付き合ってるんだ……という好奇と羨望と誹謗の視線が刺さり続ける。
「……遼くんって本当に女の子に人気あるんだね」
「あ?」
「だって女子の目が怖いもん」
「さぁね。御三家ってステータスがあるからじゃねーの」
「冷めてるねぇ」
「ステータスに食いつく女は蝶乃だけで十分だ」
桐椰くんの口から蝶乃さんの名前が出てくるなんて珍しい。聞き間違いかと思うほど驚いて、思わず目をぱちくりさせてしまった。
「……じゃあ遼くんはどんな女の子が好みなの?」
「はぁ?」
「ほら、訊かれるかもしれないし?」
「……別に。俺だから好きって言ってくれるなら誰でもいい」
「あー、駄目だねぇ遼くん。そういう人に限って色々注文がうるさいんだよ? あと絶対に譲らない顔面偏差値があるでしょ」
「うっせーなお前は! 心配しなくてもお前は眼中にねーよ!」
「告白してきたの遼くんのくせに……」
「鬱陶しい設定だな畜生! いいから早く済ませるぞ」
競技の行われる三年二組の教室に向かいながら、心では桐椰くんを揶揄ったことを少し謝った。「俺だから好きって言ってくれるなら」って言った桐椰くんの顔は寂しそうだった。だからこそ揶揄ったのだけど。
| (.)