第一幕、御三家の桜姫

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「ああ、そうだ。駿哉にお願いがあったんだけど」

「なんだ」

「三日目のコンテストの票集めのために、一般生徒くらいには手を貸そうと思ってね」


 手を貸すってなんだろうと思ったけれど「喚く生徒会役員を黙らせてまわるということか?」続く月影くんの言葉に納得した。きっと権力と暴力で生徒会役員をシメるという意味だ。


「駿哉、そういうのは向いてないだろ? だから俺の代わりに鹿島達を見張ってくれないかなと思って」

「別に構わんが」

「さすが、(したた)かですねえ、松隆くん……」

「三日目の票数で勝敗が決することに変わりはないからね。まあ、一般生徒が君達カップル票と御三家票とを混同してくれれば好都合ってわけだよ」


 ははあ、なにも私と桐椰くんのペアの良し悪しに(こだわ)らずとも、御三家ファンを集めればいいと。競技の八百長といい、本当にせこい。……もしかして見張られるべきは蝶乃さん達ではなく御三家(わたしたち)じゃないだろうか?

「問題は君達だ、桜坂、遼」


 なんて考えを覗き見したかのように、松隆くんの目が再び冷酷な光を放った。今にも呪詛(じゅそ)でも飛んできそうなその目に、桐椰くんと同時に縮こまる。


「は、はい!」

「今日の失態はもう責めないけど、明日同じことしたら本当に許さないからな。桜坂は御三家から排除される可能性も頭に入れといて」

「えっ!? あ、はい、当然ですよね! 誠心誠意頑張らせていただきます!」


 一瞬頓狂な声を上げてしまったけど、文句を言えば今にも殺されそうな表情を向けられて慌てて何度も頷いた。


「遼、聞いてる?」

「……あぁ、聞いてる。お前こそ、生徒会役員に手出すなら気をつけろよ。金だけはある連中だからな」

「大丈夫だって」


 金なら松隆くんにもあるし、暴力なら負けないし――なんて意味だろうな。


「そろそろ帰ろうか。あんまり遅くなると悪いし。遼、桜坂を送ってね」

「……あぁ」

「やけに素直じゃん、遼くん。私の彼氏の自覚出てきた?」

「早く準備しろ」


 休憩中の話が尾を引いているのだろう、私のいつもの軽口に、桐椰くんはいやに平淡な返事をした。

 その時点で嫌な予感はしたのだけれど、帰り道、ずっと桐椰くんは無言だった。松隆くんの命令で仕方なく送りはするけれど無駄に話したくない。そんな態度だった。

 ……そんなに怒ることだったろうか。私は、最初に御三家側から提示された御三家と私との関係を明確に反芻(はんすう)しただけだ。

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