第一幕、御三家の桜姫
……でも、そんな言い訳も、私が拗ねているだけだとは分かっている。分かっているし、あえて意地悪を混ぜたことだって自覚している。でも私だって、桐椰くんみたいに拗ねたくて堪らなかったんだ。御三家との主従関係にこんなくだらないことが含まれるなんて、最初は思ってなかったから。御三家との主従関係は、本当にただの主従関係で信用も信頼もしないでいいと思っていたから……。
「……ね、怒ってる?」
それでも、明日もこのままなのは正直気まずい。おずおずと口を開いたけれど、桐椰くんはやっぱり無言だ。
「……階段で話したこと、怒ってるんだよね? あれは確かにちょっと意地悪だったよ。ごめん」
本当は謝りたくなかった。私だって意地悪だったけど、私を探ろうとした桐椰くんだって悪いんだ。でも、御三家との契約に縛られている以上、そんな我儘は言えない。
「でも……、ほら、私もちょっと意地悪したくなっちゃうこともあるんだよ。ね?」
「……お前に初めて会った時のこと思い出してた」
「ん?」
私と桐椰くんが初めて会った時。下駄箱の前で、雪崩出るゴミを事前に用意した袋でキャッチする私と、だから興味を示した桐椰くん。
「どうかしたの、それ」
「……あの時と今のお前、明らかに別人だなと思ってさ」
「……といいますと」
「……あの時、お前油断してたろ」
「油断? 遼くんが虐める側の生徒じゃないって分かって安心してたとか、そういうこと?」
「違ぇよ。喋り方だよ」
──桐椰くんは、漸く私に顔を向けて、少し勝ち誇ったような、鼻で笑い飛ばしそうな、それでいてどこか寂しそうな表情をした。
「あの時のお前が、多分お前の普通だった。あれから暫く考えててやっと気づいた」
「……そう」
それを気付かれたことに、特別な感情はなかった。