第一幕、御三家の桜姫

(二)謀略に罠を



 文化祭二日目。他校の生徒や一般客も来るせいで忙しくて、桐椰くんはクラスにも顔を出さなきゃいけない(因みに私は日曜日の午前中だ)。松隆くんに怒られないよう本日の競技を予習すべく、桐椰くんと約束して七時前に第六西に到着したのだけど、なぜか桐椰くんじゃなくて月影くんがいた。カラカラと扉を開けた私に見向きもせず、月影くんは机についてお勉強をしている。


「……おはよう」

「おはよう。早いな」

「遼くんと今日の予習する約束だから……月影くんは何してるの?」

「君に話す必要が?」


 塩対応は今日も今日とて変わらない。それを通り越して敵意さえ感じる。


「……いえ別に」


 これ以上話しかけるだけでも怒られそうだ。仕方なく、大人しくソファに座り込む。


「……調子はどうだ」

「え?」


 だからまさか話を続けられるとは思ってなかった。驚いて振り向くけど、月影くんは顔も上げずに続ける。


「だから調子だ。何度も言わせるな。昨日の合計点は300点中180点だったな。本来獲得できるはずの半分だが、存外他チームも苦労してるらしく、それほど悪い点数ではなかった。鹿島達も220点と低く出たしな」

「あ、ありがとう……?」

「だが俺達の想定外というには十分に悪い点だ。散々予習させたにも関わらず、な。誰も何も褒めてない」

「……月影くん性格悪いね」

「よく言われる」


 終始顔を上げなかった月影くんの横顔をじっと見つめた。それ以上続けようとしないので、月影くんにとっての話は終わったのだろう。

 御三家の中でも、私にとっては一番謎のキャラクターだ。もちろん、桐椰くんには謎もなんにもなく、むしろ御三家内で唯一分かりやすくて謎くらいある。松隆くんは笑顔の裏が不気味で謎だけど、たまに見えるから安心する。

 しかし月影くんはこの有様だ。御三家で話をしているときは普通なのに、私に対しては口を開けば罵詈雑言の嵐。……いや、今日はそうでもないかも。無関心さを隠そうとしないというほうが正しい。

 それでもって、蝶乃さん達に言わせれば、女の子を遊んで捨ててたらしいし……。人は見た目によらない。

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