第一幕、御三家の桜姫
じっと見つめたままでいると、月影くんは手を止めてシャーペンを置いた。
「えっ」
「えっ、じゃない。なんだその目は。まだ聞きたいことがあるのか」
「えっと……ないわけじゃないけど……月影くんってあんまりキャラ掴めないなあって」
「ほう。総のキャラは掴めたか」
「すみません調子乗りました。月影くんのキャラが相対的に掴めません」
すーぐ揚げ足をとるんだから。心の中ではあっかんべーと舌を出したい気持ちでいっぱいだ。
「で、掴めないとはどういうことだ」
「別に雲みたいって言うわけじゃないけど、いっつも勉強してるし、いっつも仏頂面だし、いっつも毒舌だし」
「言っておくが俺は遼ほど甘くないぞ。不愉快だと思ったらすぐに君を生徒会に売る」
「ほら性格悪い! ねぇ、月影くんって女の子を千切っては捨て千切っては捨てを繰り返してるって聞いたけど本当?」
「昔の話だ。今はしていない」
あ、本当にしてたんだ……。やっぱり人って見た目によらないな。見つめ続けていると、銀縁眼鏡の奥にある瞳が怪訝そうに細められる。
「それがどうかしたか。君には関係のない話だろう」
「……それはそうなんだけど、月影くんっぽくないっていうか……」
「他人のことを分かったように語るのはやめたほうがいい、大抵の人間にとって不愉快だ」
「すみません、非常に純粋な気持ちから理由が気になっただけです! どうしてそんなことをしていたんですか!」
「……特に深い意味はない。よくある思春期だ」
よくある思春期……。この月影くんが、そんなものを理由に他人を弄ぶのかな。
「……それって透冶くんが関係してるの?」
「君は何でもかんでも透冶と関連付けるのが好きだな。別に関係ない」
「……でも生徒会役員を誘惑してぽいして遊んでたっていうのは?」
「それだけは透冶が関係あるな。ただ従来の遊びについては関係ないということだ」
「……それって関係をネタに情報を脅しとってたとか、そういう?」
少し躊躇いながら聞いたからだろうか、月影くんは少し閉口した。
「……そういうわけじゃない。いくら俺が女嫌いだといっても、相手の尊厳を踏みにじる真似はしない」
「……ふぅん。じゃあ誘惑してぽいしたのはただの復讐?」
「……そのほうがまだいいな。復讐は利己的であれ大義名分といえるものがある」
意味深な言い方に眉を顰めた。思わず首も傾げてしまったけれど、問いただす前に扉の開く音がする。