第一幕、御三家の桜姫
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「なんだ、駿哉もいたのか。朝からんなもん読んで趣味わりーな」
今日は少し暖かいからか、桐椰くん御用達の紺色パーカーはカバンの中に突っ込まれてる。お陰で今日は普通に制服を着てるみたいで違和感があった。
「おはよー遼くん。早く予習しようよ」
「分かってるっての。駿哉、俺ら喋るからうるさかったら場所移ってくれ、悪いけど」
「別に構わない」
桐椰くんのせいで月影くんには上手く誤魔化されてしまった。ちぇっ、と思うものの、その残念さがただの興味からくるのなら仕方ない。
「それに君達も、予習する競技は一つだけじゃないのか? 一つは相手のことをいかに熟知しているかを答えるものだが、卓球のダブルスは桜坂の運動神経が壊滅的だから全て遼がサーブで決めるということで解決じゃないか」
「だから何で途中で私に対する罵倒を挟むの? ねぇ?」
「いや、クイズ研究会とのクイズバトルがある。定番問題はやっとくべきだろ」
「あぁ、そうか」
桐椰くんはカバンをソファに置くと同時に本を一冊取り出して渡してきた。ご丁寧に帯までついてる新品の新書サイズだ。タイトルは『クイズには、パターンがある。』。
「……なにこれ」
「俺、午前中シフトで競技できねーから。お前暇だろ、読んどけ。俺はもう読んだ」
「こんなのあるならもっと早くくれない!? 今から読んだところで対策なんて練れないよ!?」
「対策、してなかったのか?」
月影くんの咎めるような鋭い声が飛んだ。うっと詰まる。
「い……一応、クイズ本は読みました……図書館にある薄いやつ……」
「今ここに総がいなくてよかったな」
暗に「それじゃ足りない」と言われた。そうは言われても、桐椰くんだって勝手に一人で予習してたのが悪いんだ。
それから一時間弱、桐椰くんと予習事項の最終確認をした。桐椰くんは無駄に記憶力が良くて、私の好きな鍋の具以外はしっかり覚えてた。お陰で確認はあっさり終わり、桐椰くんと月影くんが雑談する隣で一人、クイズの何たるかを学ぶ羽目になった。