第一幕、御三家の桜姫
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「総は? もう見回りか?」
「おそらくな。六時からいるが顔を出してない」
「確かに、徹夜組もいるからな。そういう奴らのためを思えば朝っぱらから見とくべきか……」
「だが、本当に総は一人で大丈夫か?」
「危なくなれば逃げるだろ……あと一応兄貴に連絡しといた」
「彼方兄さんに?」
「あぁ……別に総と一緒にやれとは言ってないけど、一人でリンチされてるヤツとかいたら総を気にかけとくように……」
ぶつくさ言いながらスマホを見る桐椰くんを、思わず「えっ」と振り向いた。
「桐椰くんのお兄さん、今日来るの?」
「あ? あぁ、花高の文化祭見たいってな……」
それがどうかしたか、と怪訝な顔をされて首を横に振る。桐椰くんのお兄さんか。月影くんの口からは聞いたことがあるけど、どんな人なんだろう。とりあえず、リンチされてる松隆くんを見たら助けてあげてって言えるってことは──桐椰くんもヤンチャだし──元ヤンなのかな。
「似てる? 桐椰くんとお兄さん」
「……似てるって言われたことはねーな」
「全く似てないだろう。並べば兄弟だとは分かるが、別々に見るとさっぱりだ」
「ほう……」
なるほどなるほど。私の頭の中に浮かんでいたのは目つきの悪くない桐椰くんだけど、別の場所も全く違うのかな。
「となるとクールで大人っぽくて知的な落ち着いたお兄さんなんですか?」
「お前が俺のことをどういう目で見てるのかはよく分かった」
「痛たたた冗談です」
カップルごっこを始めて以来、最早手癖のように桐椰くんは私の頬をつまむ。
「彼方兄さんは寧ろ君が今言った特徴とは真逆だな。頭の良い人で持前の要領の良さで難なく何でもこなす人だ。大らかで豪快で世話好きの兄貴肌だ」
「えっ、本当に似てないね! 桐椰くんどうしてこんなになっちゃったの?」
「うるせぇしばくぞ」
「もうほっぺがしばかれてます……」
それに加えて隣に並ばない限り分からないとなれば顔まで似てないんだろう。桐椰くんの指を引き剥がしながら、なるほどなるほどと頷いた。
「じゃあもし出くわしても分からないね」
「だろうな。俺も暫く会ってないから分からないかもしれないが……元気か?」
「あぁ、大学で楽しくやってるみたいだぜ。こっち帰ってくるのは透冶の葬式以来だけどな」
そっか──……弟の幼馴染だから、お葬式にも出てるのか。となると、きっと松隆くんのお兄さん──栄一郎さんだっけ──も、透冶くんのお葬式には出てたのかな。お兄さん達は、御三家の企みを知っているのだろうか──……。