第一幕、御三家の桜姫


「彼らが提示した交換条件は、俺達が無名役員となることだ。透冶の事件の真相は彼らにとってはどうでもよく、むしろ俺達が知りたがっていることを利用して、俺達を下僕にする機会を得た程度のものなんじゃないか」

「ああ、なるほどなあ」桐椰くんも頬杖をつきながら頷いて「生徒会至上主義を(うた)う側にとっちゃ、御三家(おれたち)は目の上のたんこぶみたいなもんだもんな」

「それ、透冶の事件の真相を話すことが生徒会に不利益を与えないって前提がない?」

「そうだが、その前提でも辻褄は合う。生徒会にとっては犯人を突き出してそれで済むものなんじゃないか」

「……まあ、そうか……」


 納得はできる、ただどこか釈然(しゃくぜん)としない。そんな様子の松隆くんは私に視線を向けた。


「……なに?」

「桜坂、生徒会の連中と何か関わりないの?」

「なーんにも。転校してきてからって意味なら知ってのとおり虐められてはいるけど、それだけ」

「鹿島とかは? 知り合いじゃない?」

「全然……」


 今だって、私の頭に浮かぶ鹿島くんは、職員室前で出会った鹿島くんだけだ。鹿島くんだって、私のことを「噂の桜坂」なんて言ってたし、初対面ということで間違いはないだろう。……もちろんそれが嘘だった可能性もあるけれど。

 もしあれが嘘で、しかも私と鹿島くんに関わりがあるのだとしたら――。


「お待たせしましたぁ」


 メイドさんが三人やってきたせいで思考は途切れた。その手にはお盆があるので接客なのは分かるけど、なぜ三人もやってきた。


「……何か用ですか?」


 当然、その疑問を抱いたのは松隆くんも同じ。声は剣呑(けんのん)さを帯びる。メイドの三年生たちはそれを気にした様子はなく、代わりに一瞬、桐椰くんに視線を投げた。


「桐椰くんがBCCに出るって聞いたんだけど、本当?」

「ああ、本当ですよ」


 それがどうかしましたか、と松隆くんが重ねれば、三人は顔を見合わせて「よし」と頷いた。一体なにごとだろう。もしかしてこの三人は生徒会役員で、この場で宣戦布告でもするつもりだろうか、なんて――。
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