第一幕、御三家の桜姫
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「ねえ、それって――」
「実際どうだ、桜坂さん」
私の質問を遮り、そのまま答えるつもりはないかのように、月影くんが珍しく私に問いかける。
「君の周りで、透冶の存在に言及した人間はいたか。もしくは、俺達には他に友人がいた、と」
「……それは……いなかった、けど……」
本当は舞浜さんが覚えていたけれど、うっすらとしか覚えていなかったし、それを聞いた他の二人の反応も薄く、そして結局、あの三人は透冶くんと御三家とを全く別のものとしてしか認識していなかった。そんなことをありのままに伝えることなんてできなかった。
「……皮肉だよね」
松隆くんは視線は虚空を彷徨う。
「俺達は透冶のことをなかったかのように振舞う学校が許せないのに、俺達が嗅ぎ回れば回るほど、学校には御三家が浸透していくんだから」
御三家が目立てば目立つほど、透冶くんのことは忘れられていく――「そんな人いたっけ?」と。
だから、どうすればいいのか分からなくなってしまった、そんなふうに聞こえてきそうな松隆くんとは裏腹に、桐椰くんは静かに拳を握りしめるのが視界の隅に映った。
「……だから俺達だけは忘れない」
忘れちゃいけない。そう言い聞かせるような声に、松隆くんと月影くんは……ややあって、頷く。
「……そうだね」
まるで自らに楔を打ち付けるように、それでいてそれを甘受するように、穏やかに。
そんな三人の前で、私の目の前に置かれている四つ目のグラスは、主を見失っているかのように、ゆらゆらと水面を揺らしていた。