第一幕、御三家の桜姫
(三)誠実に恩を
文化祭最終日。私と桐椰くんは午後からコンテストに出されることになっているので、午前中は自由行動だ。お陰で本日の私はクラスの和風喫茶を手伝うことになる。赤色の着物と白いエプロンをした私を桐椰くんは不服そうな顔でじろじろと見た。不服そう、といえばまだ聞こえはいいけど、正確に言えばなんというか、あれだ。ヤンキーががん飛ばすときの目だ。
「なんでしょう」
「……いや別に。お前が数時間後に俺の彼女として紹介されると思うと気が重くて」
「失礼な! でもいーじゃん、今日でお役御免だよ」
ぐっと親指を立てて見せる。桐椰くんは苦虫を噛み潰すけれど、考えてることは同じらしく「まぁな」と返事をした。
「この二日間、死ぬほど疲れたから二度と御免だしな……。取り敢えず午前中は休ませてもらうか……」
「サボるの? 暇なら手伝いなよ、うちのクラスはそこそこ盛況で忙しいみたいだよ?」
「じゃあお前が働けよ。俺は用事がある」
「……何の用事?」
妙に頑なな桐椰くんを首を傾げながら見上げると、口をむずむずさせながら視線を泳がせている。んん?
「まさか本物の彼女でも来るの?」
「ちっげーよ! ……弟が来るんだよ」
「……あっそっか! 遼くんって三人兄弟か!」
ぽんっと手を叩いた。つまり弟のお世話をするから手伝えないってことかな。面倒を見てるのを見られるのが気恥ずかしい、みたいな。
「いくつ?」
「……中学三年」
「ほほー。思春期真っ盛りだね。だから一緒に回ってあげるの?」
「まーな。兄貴が甘やかしたせいで典型的な末っ子なんだよ。お陰で文化祭行くから出て来てって……」
「うへぇ。彼方って女の子だけじゃなくて弟にも甘いんだねぇ」
女の子を可愛がる調子で弟を可愛がればそれはそれは甘えっ子に育ちそうだ。でも彼方と桐椰くんの弟って一体どんな子だろう……。ただの桐椰くんの弟ならヤンキー一歩手前だろうけど、彼方の弟でもあると考えるとなぁ……。
「……お前、兄貴のこと知ってんの?」
ふむふむ、と考えていたのだけれど、胡乱な声と目ではたと気が付いた。しまった。完全に口が滑った。
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「なんでしょう」
「……いや別に。お前が数時間後に俺の彼女として紹介されると思うと気が重くて」
「失礼な! でもいーじゃん、今日でお役御免だよ」
ぐっと親指を立てて見せる。桐椰くんは苦虫を噛み潰すけれど、考えてることは同じらしく「まぁな」と返事をした。
「この二日間、死ぬほど疲れたから二度と御免だしな……。取り敢えず午前中は休ませてもらうか……」
「サボるの? 暇なら手伝いなよ、うちのクラスはそこそこ盛況で忙しいみたいだよ?」
「じゃあお前が働けよ。俺は用事がある」
「……何の用事?」
妙に頑なな桐椰くんを首を傾げながら見上げると、口をむずむずさせながら視線を泳がせている。んん?
「まさか本物の彼女でも来るの?」
「ちっげーよ! ……弟が来るんだよ」
「……あっそっか! 遼くんって三人兄弟か!」
ぽんっと手を叩いた。つまり弟のお世話をするから手伝えないってことかな。面倒を見てるのを見られるのが気恥ずかしい、みたいな。
「いくつ?」
「……中学三年」
「ほほー。思春期真っ盛りだね。だから一緒に回ってあげるの?」
「まーな。兄貴が甘やかしたせいで典型的な末っ子なんだよ。お陰で文化祭行くから出て来てって……」
「うへぇ。彼方って女の子だけじゃなくて弟にも甘いんだねぇ」
女の子を可愛がる調子で弟を可愛がればそれはそれは甘えっ子に育ちそうだ。でも彼方と桐椰くんの弟って一体どんな子だろう……。ただの桐椰くんの弟ならヤンキー一歩手前だろうけど、彼方の弟でもあると考えるとなぁ……。
「……お前、兄貴のこと知ってんの?」
ふむふむ、と考えていたのだけれど、胡乱な声と目ではたと気が付いた。しまった。完全に口が滑った。
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